周知のように、今年の春闘で大企業は平均5%を超える賃上げを実施しました。マスコミにも33年ぶりの大幅な賃上げを実施したと取り上げられています。それに追随するかのように、格差はあれ中小企業でも苦し紛れに、ある程度の賃上げが実施されつつあります。
また、その流れを受けてか日銀は17年ぶりの「利上げ」を決定しました。
そんななかで、4月1日から21年に改定された「年金改革法」に基づき年金が支給されることになり、年金が実質減額されることについて物議をかもしているようです。
年金受給者だけが取り残された感じで、反感も少なくにようです。
そこで、今回はこの4月から変わる年金問題について取り上げてみます。
・年金どうかわる?
厚労省は、4月から厚生年金支給額を夫婦二人の標準世帯で月額6001円、国民年金も一人月額1758円引き上げるようです。「バブル期並みの高水準」で、物価高が続く中、年金生活者にも恩恵が回ってきたと報じられているのですが、それは大きな間違いと言わざるを得ません。
内容をよく見ると、大幅な減額なのです。
老後の年金保障である年金は、物価が上がれば支給額が同じ上昇率で引き上げられなければ生活は苦しくなります。そのため、年金には物価に合わせて支給額を改定する「物価スライド」という仕組みがあります。
現在の年金支給額は厚生年金の場合、標準世帯で月額22万4482円となっています。2023年の平均物価上昇率は3.2%とされているので、年金もそれに合わせて7183円引き上げられなければ、今までの生活水準を維持できません。しかし、実際の引き上げ額は上で述べたように6001円で、本来加算されるべき金額より月額1182円、年間にすると1万4184円も少ないのです。要するに、実質減額になるということです。同様に国民年金も一人当たりで、年間4500円の減額になるのです。
ちなみに、総務省の「家計調査」によると、65歳以上の夫婦二人の年金生活世帯が1か月にかかった消費支出は、2023年で平均約25万1000円となっており、物価上昇で前年比なんと1万4000円も増えているのです。年金の手取り月収は平均で約21万3000円なので、約3万8000円が赤字になります。これから一層この赤字幅は増えていくことが予測されます。
貯金を取り崩しながら生活を切り詰めて生活している年金生活者にとって、けっして無視できることではないでしょう。
・やはり「年金改革」に問題あり
では、このような原因はどこにあるのでしょうか。
一言でいうと、2021年に改定した「年金改革」にあるのです。
この「年金改革」については以前にブログでまとめてあるので詳細は避けますが、主な要点は二つです。
その一つが「マクロ経済スライド」です。これは簡単に言えば、物価が上昇した時に年金の引き上げ幅を物価上昇率より最大で0.9%低く抑える仕組みのことです。あきらかに、「年金減額の仕組み」と言えるでしょう。高齢化で年金財源がひっ迫していることを理由に、毎年年金を少しずつ削っていくことにその狙いがあるのです。物価の上昇に合わせて年金も額面上は増やすように見えますが、実質は減額なのです。
このような「マクロ経済スライド」に加え、4月からの年金改革で見逃せないのは、新たな「年金減額ルール」が発動されていることです。これは、年金改定は物価上昇率を基準にしていたのですが、「新ルール」では物価と賃金がどちらも上昇した場合、伸び率が小さい方を基準にして改定するようにしたのです。
要するに、「低い基準」からさらに「マクロ経済スライド」を発動して、いわばダブルで年金を減額する仕組みになっているのです。
賃金上昇はさらなる物価の上昇を招きかねないので、こうなれば年金生活者にとっては今後、さらなるダブルの減額を押し付けられることになるのです。
まさに最悪の事態に追いやられることになると言っても過言ではないでしょう。
・社会経済的影響は?
このような年金の実質減額は、年金生活者に重い負担を余儀なくされるばかりではなく、社会全体にも悪影響を与えることは避けられないでしょう。
何より、年金収入に頼っている年金生活者にとって、年金支給額が物価上昇率ほど引き上げられなければ、実質目減りするばかりか、インフレによる資産の目減りも加わり、毎年家計を見直していかなければ、最悪、「老後破綻」を招く事態になりかねないでしょう。
このことは、国全体の消費支出にも大きく影響を及ぼすことになるのです。
現在、年金受給者は人口の約3割を占めており、年々増加している傾向にあるのですが、これは国全体の消費支出のかなりの部分が、高齢者をはじめ年金受給者が占めているということです。その消費支出の源泉が主に年金に頼っている限り、年金の実質減額は消費支出にマイナスになることは間違いないでしょう。
年金受給者は実質減額になるとともに、現役世代には年金保険料が大幅に引き上げられ、「年金ショック」は現役世代にも及ぶことになることも看過できません。
4月から、自営業者や非正規労働者などが加入する国民年金保険料が、年額で5520円の値上げされ、来年4月からはさらに6360円値上げされることになっています。非正規労働者にとっては、賃上げが波及していない人も少なくないことを考えると、この負担はけっして少なくないでしょう。
ましては、現在も国民年金は保険料未納率が4割近い状況で、大幅値上げすると未納率がさらに高まることは必至で、制度そのものがたちいかなくなる危険さえあるのです。
厚生年金について見ても、厚生年金の保険料は賃金の18.3%で固定されており、賃上げにそってその負担が増えることになるのは避けられないでしょう。現役世代にとっても「年金ショック」は他人事ではないのです。
いずれにせよ、「賃上げラッシュ」が騒がれているその裏には、年金保険料の負担が待ち構えていることを見逃してはならないでよう。
4月からの「年金ショック」は今年から始まる新年金改革のほんの序章に過ぎないという見方もあり、今後の行方が気になるところではないでしょうか。
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