アプロ君のここに注目;インフレとデフレ、今はどっち?

物価

バブル崩壊後の日本の経済について、「失われた20年」とか「失われた30年」とも言われていますが、その中身は経済が「デフレ経済化」していることにありました。
そこで90年代以降、日本はデフレからの脱却を課題として取り組んできたのですが、長らくの間、デフレから脱却することができませんでした。記憶に新しいのですが、90年代後半から日銀は大胆な金融緩和政策をとってきており、2012年に発足した安倍政権以降は、デフレからの脱却を掲げあらゆる手段を講じてきたのですが、決定的な成果を見いだせず今日に至っているのです。日銀が未だ金融緩和スタンスから転換出来ていないのはその端的なあらわれと言えるでしょう。

そこで、現在の日本経済は未だにデフレ状態なのか、あるいはデフレを脱却してインフレ状態に転換したとみなすべきか、インフレとデフレの概念を確認しつつ現在の実態をアプローチしてみます。

・インフレとは何か

インフレは「インフレーション」の略語で物価が継続的に上昇する状態をいいます。
物価の上昇をあらわすインフレは、現象的には一般的に二通りの原因から起こるといわれています。

その一つは、景気が上向きモノやサービスに対する需要が増えて供給を上回ることによって発生するインフレです。これを「ディマンドプル・インフレ」といいます。
この場合、景気が上向き消費意欲が高まることによって需要が増え、モノやサービスへの購買が活発になります。消費が活発になれば企業は売り上げが増えるため利益が改善され、それによって従業員の賃金も上昇し、社会全体にカネ回りがよくなり、それが景気を一層押し上げるのです。

もう一つは、経済に活気がないまま、外的な要因で物価が上昇する場合があります。原油や金属、穀物などの資源価格が高騰して、企業の原材料費が高まり商品をつくるためのコストが上がることで起こるインフレです。このようなインフレを「コストプッシュ・インフレ」といいます。
1973年に起きた第1次石油危機の時、中東で戦争が勃発し、産油国が原油価格の大幅な引き上げと供給削減を相次ぎ発表したことをきっかけに物価が激しく上昇した、いわゆる「狂乱物価」の時がその端的な例といえます。さまざまな製品の原材料となる原油が不足したり、その価格が高騰することによって、製品供給が急減したり生産コストの上昇につながり深刻なインフレを招くことになったのです。

インフレを物価の上昇として捉えた場合、おカネ(貨幣)の流通量との関係からもみることができます。インフレの原因を貨幣の側からみるならば、インフレは管理通貨制のもとで原理的には「流通必要貨幣(金)量」を上回る通貨の過剰投入によって物価が騰貴する現象としてとらえることができます。つまり、市場の「流通必要貨幣量」以上に通貨(日本銀行券)が市場に投入された場合、通貨が貨幣価値に対して減価するため商品価格が上昇していくということです。
物価の上昇率はさておき、インフレが一時的な減少ではなく現代社会において定着しているのは、管理通貨制度のもとで流通通貨量を増大させてきたことに、その根本原因があるといえます。

・デフレとは何か

デフレは「デフレーション」の略語で、物価が下がり続けておカネの価値が上がり続けることです。
デフレは不況下でモノやサービスに対する需要が減少し、供給を下回ることで発生します。

デフレ下では物価が下がり続けるので、モノやサービスに対する需要が先延ばしされ、買い控える傾向が生まれます。買い手が減ると価格をさらに下げて売ろうとするので、企業は値下げした分だけ収益が悪化し、従業員の給料も伸びにくくなり、その結果、ますます商品が売れなくなり、さらなる物価の下落を招き、全体として経済活動が縮小してしまいます。
このように一度デフレに陥ると、物価の下落と経済活動が縮小するという悪循環が続きます。これを「デフレスパイラル」といいます。こうした負の連鎖に陥ると、不況から脱することが大変難しくなります。
日本ではバブル後の90年代なかば以降にデフレ状態に陥りました。その後、「失われた20年」や「失われた30年」と言われていますが、これは一度デフレに陥ると脱却するのがいかに困難なのかを示しているのです。

・今はインフレ、それともデフレ?

さて、インフレとデフレの基礎知識を踏まえて現在の日本経済をどのようにみればいいのでしょう。
上述したように、日本はバブル経済が崩壊したあと、90年代に深刻なデフレを招き、デフレからの脱却を目指して異次元の金融緩和を施行してきました。ところが、現在においてもデフレからの脱却宣言は未だ出されていないのが現実です。
しかしその一方で、企業物価や消費者物価は確実に上昇し続けています。
依然とデフレ状態とみるべきか、それともデフレから脱却しインフレに転換したとみなすべきなのか、悩ましいところではないでしょうか。

ちなみに、政府はデフレ脱却を「消費者物価」、「GDPデフレーター」、「需給ギャップ」、「単位労働コスト」の4つの指標が安定的にプラスになることを条件としてきました。
その指標にそってみると、まず「消費者物価」については、22年8月以来2%~3%台の上昇を続けており、22年度では前年度比3.2%の上昇であり、政府は23年度は3.0%、24年度も2.5%とそれぞれ上昇すると見通しています。
また、物価動向を示すための指標の一つである「GDPデフレーター」は、名目GDPを実質GDPで割って算出されるのですが、この「GDPデフレーター」も前年同月比で上昇傾向を示しています。

しかし、実体経済と賃金動向を示す指標はまだ十分ではなく力不足が続いています。
「需給ギャップ」は一国の経済全体の総需要と供給力の差のことで「GDPギャップ」とも呼ばれます。「需給ギャップ」がマイナスになるのは、需要よりも供給力が多い時で、企業の設備や人員が過剰で物余りの状態になります。プラスだと物価が上がりやすく、マイナスでは物価が下がりやすいとされています。この「需給ギャップ」をみると、2023年10~12月期GDP統計で、実質GDPが前期比で予想外のマイナスとなり需給ギャップのマイナス幅が一段と拡大している状況なのです。ちなみに、全国消費支出の状況をみると、23年3月以降連続マイナスを推移しています。

「単位労働コスト」とは、1単位のモノを生産するのに必要な賃金のことで、インフレ指標のひとつとされています。要するに企業が一定のモノをつくるのに必要な賃金のことです。これが上昇すると製品価格が上がりインフレ圧力になり、低下するとデフレ圧力になるとされています。
この「単位労働コスト」についてみると、2022年度を通じて0.53~0.54程度と緩やかながらも上昇傾向にあり、直近の23年度7月~9月期は前年同月比で0.4%上昇しています。
このようにプラス圏にはあるのですが、海外と比較すると限定的で今後の賃上げ動向が物価と賃金の好循環のカギを握るといえるでしょう。

このように、物価動向をみると「デフレ」状態にあると見るよりも、表面上はコストプッシュによる「インフレ」的な様相を示していると言えるでしょう。しかし、これは賃金上昇率が物価上昇率を安定的に上回り、実質賃金の定着にまでは至っていない「悪い物価上昇」に過ぎないのです。とりわけ、現在の物価上昇は海外商品市況の上昇や円安といった海外要因によってもたらされたものであり、持続性には疑問が残るところです。
また、賃金上昇や需要面においても、依然と弱さが残ったままで、足元ではまだ需要の拡大が伴っていないのです。一歩踏み間違えると、需要不足によるデフレ状態に陥る可能性も払拭できていないのが現実なのです。
こうみると、デフレ脱却の定義である「物価が持続的に下落する状況を脱し、再びそうした状況に戻る見込みがない」状況には到底ないと言わざるを得ません。

ということで、今後、デフレ脱却においては一にも二にも、その関門は賃金動向にあり、これに伴う需要回復にあるということは疑いの余地がないところで、その動向が気になるところではないでしょうか。

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