去る5月29日、「年金改革法案」が参院本会議で成立しました。
年金不安が増している中での改革法案の成立だったのですが、それにしても、このニュース、マスコミでそれほど大きくは取り上げなかったように思うのですが、ちょっと首をかしげてしまいます。
実は、この改革法案、大変重要な問題が含まれているんですよね。そこで、注意喚起の意味もこめて簡単にふれてみたいと思います。
・「改革法案」の注目点、その1
今回、成立した改革法案は厚生年金の加入対象となるパートなどの短時間労働者の範囲拡大や、年金の受給開始年齢を75歳まで繰り下げ可能にすることなど、受給者にとって大変重要な問題が含まれているんですよね。
受給者にとって最も関心な点の一つは、年金の受け取り始める年齢の選択肢が60歳から75歳まで広がるということだと思います。
要するに、年金の支給開始年齢は原則として65歳ですが、60歳からの繰り上げ受給と繰り下げ受給は70歳とされていたのが、改正により繰り下げ受給が75歳まで拡大されたのです。
それで、もしも75歳で受給を始めると65歳からの受給開始より、月額で最大84%の年金増になるとのことです。
ただ、問題は生涯の年金受給総額で考えれば、必ずしも増額になるとは限らないのですよね。
75歳から年金を受給開始した場合、受給総額が70歳から開始した場合の受給総額を上回るのは、およそ91歳以上まで生存した場合なんです。
また、年金が増額されることで所得税や社会保険料の負担が増えて、手取りにすると結果として必ずしも84%増にはならないことが十分にありえるのです。
しかも、医療や介護の自己負担額が上がる可能性も念頭に考えると、逆に実際の受給額は下がることさえありえるのです。
ある推算によると、75歳からの受給を選んだ場合、生涯の年金受給額は、約350万円も減るらしいですよ。
とんでもないからくりとしか言いようがないですね。
なので、文面通りに受け止めると、大きな損失を被ることになりかねないのです。
くれぐれも慎重に判断すべきではないでしょうか。そもそも、91歳まで生存できるかどうかも微妙ですよね。
まあ、現在でも繰り下げ受給を選択している人は1%強にとどまっているそうなので、実際に75歳まで繰り下げて受給しようとする人は、そう多くはいないと思いますけどね。
いずれにしても、今回の「年金改革法案」をけっして見逃してはいけないと思いますね。
・「改革法案」注目点、その2
「年金改革法案」のもう一つの注目点は、パートなどの非正規雇用で働く人たちに厚生年金の適用を広げている点でしょう。
非正規雇用で働く適用の有無が事業所規模によって異なることは、本来あるべき姿ではないという観点からして歓迎すべきことだと思います。
今までは、短時間労働者の厚生年金適用は従業員数が501人以上の事業主に限定されていましたが、改正法では2022年10月から101人以上、2024年10月からは51人以上へと適用範囲を緩和されることになっています。
当然、最終的には事業所規模要件の撤廃を目指すべきであり、一刻も早く短時間労働者の年金確保ができるようにすべきではないでしょうか。
非正規雇用が増え続けている現在の雇用環境からして、早期に適用拡大のスケジュールを示すことが望ましいと思うのですが、ただ、今回の改正によって現段階で解決すべき課題も少なくないように思います。
厚生労働省の試算によると、今回の改正による厚生年金適用者は2024年10月時点で、約65万人増える見込みで、パート1人につき企業の保険料負担は健康保険と合わせて、年間で約25万円増になるそうですよ。当然、企業にとってはかなり重い負担になるわけで、思惑通りに進むのか懸念されるところだと思います。
それでなくても、新型コロナにより深刻な影響を受けている現状を考えると、そう簡単なことではないようです。まして、コロナの直撃にあっている外食産業や小売業、観光業などにおいては課題が山積みと言えるでしょう。
どう見ても、行政府の支援やテコ入れは必須と言わざるを得ないですね。
繰り返しになりますが、非正規雇用の増大が目立つ昨今、短時間労働者の年金確保とともに、将来世代の年金を保証するための行政府の責任ある対処を切に願う次第です。
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