アプロ君のここに注目;下がり続ける実質賃金、何が問題?

経済

物価高が続く昨今、賃上げ問題が世間の関心を呼んでいるのですが、結果的には労働者の実質賃金は2年連続の減少となっています。名目賃金は上昇しつつも実質賃金の減少傾向に歯止めがかからない原因は何か、その背景に横たわっている問題について考えてみたいと思います。

・名目賃金と実質賃金

初歩的なことですが、名目賃金と実質賃金の違いから確認しておきましょう。
名目賃金は労働者(給与所得者)が受け取る現金給与のことで、給与で受けとる貨幣額でみた賃金のことです。これに対して実質賃金は、この現金給与で購入できるモノやサービスの量でみた賃金のことです。
なので、人々の生活水準は名目賃金の量とその時々の物価水準の関係によって決まると言えます。
例えば、名目賃金が1割上昇しても、物価が2割上がると実質賃金は1割の下落になることで、生活は苦しくなることを意味しています。
要するに、名目賃金がいくら上昇しても、それ以上に物価が上がれば実質賃金は下がり、人々の生活は苦しくなるのです。
ということで、人々の生活水準は名目賃金ではなく、実質賃金によって計られるのです。

・2年連続減少の実質賃金

さて、そこで実質賃金の状況を探ってみましょう。

厚生労働省の発表によると、2023年度の実質賃金は前年度比2.2%減となりました。落ち込み幅は、消費税増税の影響で物価が上昇した2014年度以来(2.9%)、9年ぶりの大きさとなるようです。
これで、実質賃金は2年連続の減少になったのです。

名目賃金について見ると、2021年度にプラスに転じた後、3年連続で増加したものの、その一方で2021年度にプラスだった実質賃金は、2022年度から2年連続で減少しており、2022年度のマイナス1.8%に対して、2023年度はマイナス2.2%と減少幅も拡大しているのです。

要するに、名目賃金に相当する現金給与は増加傾向にあるのですが、円安や原油高を背景とする物価の高騰に賃金上昇が追い付いていないのです。
しかも、実質賃金の減少を見るうえで注意を喚起したいのは、あくまでも昨年の実質賃金の減少は一人当たりの月平均で見た数字であって、中小零細企業などの給与状況などを踏まえて考えるならば、2.2%の減少以上に実質賃金が下がっている層も少なくないということです。
いずれにせよ、今年度に入ってもこの傾向は変わっておらず、実質賃金の減少はまだ続くことが予想されるでしょう。

厚生労働省が発表した「毎月勤労統計調査」によると、4月に労働者が受け取った現金給与の総額は平均で前年同月比で2.1%増加したのですが、消費者物価指数は2.9%の上昇で実質賃金は0.7%減少しているのです。これで、実質賃金の減少は25か月連続で、比較可能な1991年ん以降、最長となりました。
今年の春闘でどの程度の賃金アップが実現するか、大変関心を呼ぶことになりましたが、結局、依然として賃上げが物価の上昇に追い付いていない状況が続いているのです。

・実質賃金減少の背景

このような実質賃金の減少の背景にはどのようなことが横たわっているのでしょうか。

そこで注目せざるを得ないのは、「GDPデフレーター」の指標です。
この「GDPデフレーター」とは物価動向を示すための指標の一つですが、名目GDPを実質GDPでわることによって算出されます。この指標は消費や公共投資、設備投資など国内で行われた生産活動のほとんどを含めることになるため、国内経済の全体的な物価動向を読み取ることが出来るのです。
また、「GDPデフレーター」は、消費者物価指数と違い、原油など輸入コストの上昇分は含まれず、国内に起因する物価の値上がり分のみを算出できます。

さて、この「GDPデフレーター」を23年度で見ると、前年度比で4.1%上昇しているのですが、値上がりした分が賃金にどう回ったのかを計算すると、上昇分4.1%のうちで、賃上げ要因はわずか0.3%分にとどまっており、割合で見ると、わずか8%に過ぎないのです。残りの分は企業収益や固定資産の減少分などで、その大半は企業収益と考えられるのです。以前のブログでも指摘したのですが、実際に24年3月期決算で、上場企業の純利益の総額は3年連続で過去最高となっているのです。

これは、企業がコスト上昇分を転嫁するため商品の値上げを相次いで行なったことが、その背景にあって、相次いだ値上げによる物価上昇が、その多くが企業収益となり、賃上げにはほとんど回っていないことを示しているのです。
要するに、値上げによる過去最高の企業収益を労働者にもっと還元することが可能であるということ、言い換えれば、もっと賃上げが出来たということです。

こう見ると、物価上昇による実質賃金の減少を単に円安や輸入物価の上昇によるものと、安に片付けるのはいかがなものかと考えてしまいますね。

資本主義経済は資本の主導のもとで運行されているとは言え、相次ぐ値上げによる物価の上昇のもとで、労働者の生活はますます苦しい状況に追い込まれている現実を直視すると、やるせない気持ちが込み上げてくるのも当然だと言えるでしょう。
欧米ではコスト以上の値上げをして利益を上げる企業行動は「強欲インフレ」と批判されているようですが、日本でも同じような事態になりつつあるのでないでしょうか。

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