4月29日以来、ふたたび1ドル=160円台の大台にのせた円安ですが、市場ではすでに1ドル=200円台を予測する声まで出ています。
はたして円安はどこまですすむのか、目を離せない状況になってきているようです。
そこで、以前のブログでも取り上げたのですが、再度、今の現状と今後の行方を予測してみたいと思います。
・為替介入だけでは円安は避けられない
振り返ってみると、約2ヶ月前の4月29日に1ドル=160円台まで円安が進行したのですが、あれからわずか2ヶ月でこの水準を超えたことになります。
その間、5月にかけて円買いドル売り介入が実施され150円前半まで円高にもどしたのですが、じわりじわりとふたたび円が売られ、150円台後半で推移していたのが、ここへ来てついに160円台にまで値下がりしたのです。
言うまでもなく、昨今の円安は主に日米金利差によるものですが、今回の円安の進行はFRB(米連邦準備制度理事会)の早期の利下げ観測が後退したところへ、6月14日に開かれた日銀の金融政策決定会合における利上げ見送りが、日銀の日米金利差拡大に拍車をかけたことがその主因と言えるでしょう。
ちなみに、前回の為替介入をみると、月間としては過去最大の約10兆円近い額に至っているのですが、介入原資となる外貨準備高は約200兆円で、そのうち実際に回せるのは約1割の20兆円と言われており、為替介入においても限りがあるようです。
日米金利差を背景にした円安を政府高官の口先介入も全く効果はなく、再介入すれば資金は底をつき、それを見透かした投機筋に円を売り浴びせられるリスクも否定できない状況にあるのは間違いないでしょう。
・日本の経常収支と円安
長期化する円安は、実は日米間の金利差だけが原因ではないのです。
昨今の日本の経常収支との関係が深く関わっているのです。すなわち、経常収支の構造的変化が起因していると言えるでしょう。
経常収支は、国の国際収支を表す基準の一つで、貿易収支とサービス収支、海外からの利子や配当金等の第一次所得収支と開発援助や贈与の受け払い等の第二次所得収支の合計からなっています。
一般的に、この経常収支の黒字・赤字は為替市場における需給に大きく影響するのです。例えば、日本の経常収支の黒字は、外国為替市場でのドルなどの外貨の供給要因となります。貿易やサービスで獲得した多くの外貨は、日本企業が日本国内で使用できるように外国為替市場で売却され、円に換金されます。なので、外貨が多く売却されることは外貨の供給要因となるので、結果、経常収支の黒字は円高を招くことになるのです。
経常収支が赤字の場合は、その逆の需給関係になります。日本企業から支払われる多くの円は、各海外企業の自国通貨に換金され、外貨が多く購入されることは外貨の要因となるので、結果、経常収支の赤字は円安を招くのです。
ところで、日本の経常収支は1996年以降、黒字が続いていますが、構成項目をみると、2000年代前半までは貿易収支の黒字が多くを占めていたのですが、2000年代半ば以降は貿易収支に代わって第一次所得収支の黒字が経常収支の黒字を構成するようになりました。要するに、海外への直接投資および証券投資の積み上がりに伴って増えた投資収益が経常収支の黒字の過半を占めるようになったのです。
しかし、この第一次所得収支の黒字は一般に対外直接投資や対外証券投資のリターンであるため、海外で再投資されるケースが多く、円高要因になりにくいのです。
これに比べて、貿易収支は赤字基調に転落しており、加えてサービス収支も2000年代以降赤字基調が続いています。
このように、経常収支の構造変化からして円の需要が下がり続けているのが実情だと言えます。
すなわち、日本の経常収支は黒字であっても円高圧力を生みにくい構造に変化していることが根底にあるということです。
というわけで、現在の円安は日米間の金利差プラス貿易取引や投資などでのドル超過需要が作用していると要約できるでしょう。
・170円台が現実味を帯びてきた円安
さて、このような現状からして円はどこまで下がり続けるのでしょうか。
現在、1ドル=161円台前半(7月10日現在)で推移していますが、市場では200円台を予測する声も出始めています。1ドル=230円まで円安が進むというAIの予測が飛び出す中、少なくても年内に170円台は現実味を帯びてきていると見る専門家も少なくないようです。
上でみたように経常収支の視点からすると、中長期的には円安で推移していくことが見込まれるのですが、当面としては日本の金融政策がどこまで円安に対応できるかにかかっていると言えます。
上でみたように経常収支の視点からすると、中長期的には円安で推移していくことが見込まれるのですが、当面としては日本の金融政策がどこまで円安に対応できるかにかかっていると言えます。
しかし、4月の金融政策決定会合に見るように、日銀のスタンスは金融政策の現状維持をかたくなに続けようとしています。要するに、日銀は今の円安の動きに政策的についていくことはしないというのが本音のようです。為替介入はあっても「為替と金利」の闘いには乗らないというのが日銀のスタンスのようです。
いずれにせよ、当面としては日米間の金利差が縮まらないかぎり円高への転換は不可能に近いといっても過言ではないでしょう。
世界的に政治的緊張感の高まりや、経済的不安定性が増大する可能性が高いうえ、日本にとっては地政学的リスクも増大することを念頭に、円安の一層の加速が見込まれているようです。
円安は自動車など輸出企業にとっては有利に作用し、昨今の株価の高騰を後押しするポジティブな側面はあるものの、このまま円安が続くと、全体としては内需企業にとって大きな痛手になるのは不可避であり、廃業・倒産という事態追い込まれる恐れがあり、輸入食品やエネルギー価格の一層の上昇により、家計の負担は益々増えることになるでしょう。
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