前回の資本回転についてのお話のなかで、利潤を目的とした資本の運動は、生産過程と流通過程から構成されており、その過程で生産資本、商品資本、貨幣資本という形態を絶えず繰り返して運動していることがわかりました。
これらの生産資本や商品資本、そして貨幣資本は資本運動が繰り返し行われる過程で、互いに独立した社会的地位を確保していくのです。その独立した形態が生産資本は産業資本として、商品資本は商業資本として、また貨幣資本は貸付資本としてあらわれるのです。
そこで、今回は商品資本の独立した形態である商業資本について、その運動のメカニズムを詳しく掘り下げていくことにします。
商業資本とは何か
すでにみてきたように、現代社会ではあらゆる財貨が商品として生産されていますが、そのことは商品の生産者は自分自身がそれを消費するためではなく、他人に、すなわち消費者に販売する目的で生産をおこなっているのです。
しかし、生産者は多くの場合、商品を直接消費者に販売するのではなく、生産者と消費者の間にはいろいろな業者がいて商品の流通を媒介しています。
たとえば私たちは、生活を営む上で必要な食料品や日用品などあらゆる商品を毎日のように購入するのですが、それらを直接に生産者から購入することはまれで、ほとんど小売商やスーパーマーケット、コンビニや百貨店などの商店から買っているのです。
これらの商店はさらに、問屋や商社、その他の専門的な流通業者から商品を仕入れています。
こうして、商品が生産者から最終的に消費者の手にわたるまでは、いろいろな業者が介入しているのです。そのため、商品によっては流通経路がきわめて複雑なものも少なくありません。
このように、商品の流通が様々な業者によって独自な営業活動として営まれるばあい、この活動を商業といいます。
商業は商品生産が発達するにつれ、資本の回転を速め収益を増やす要求から生産者が商品を直接消費者に販売するのではなく、商業を専門とする業者に委ねることになり、これとともに商品の輸送や保管、仕分けや包装などの商品の流通と販売に付随するいろいろな作業も商業の特殊な分野として発達することになったのです。
さて、このように商業を営むためには当然のごとく独自の資本が必要になります。
たとえば、小売業を営むには、適当な場所に店舗をかまえ、必要な備品を購入しなければなりません。また、店員その他の従業員も必要に応じて雇うことになります。
それとともに、絶対欠かすことのできないのは、商品の仕入れのための資金も必要になります。
このような商業を営むのに必要な一連の資金を商業資本と呼びます。
商業利潤とその源泉
ところで、この商業資本の運動をみると、形態としては生産者からの商品の仕入れと、仕入れた商品を消費者に売るということになります。そして、このことによって小売商は仕入れ資金として投資した資本を売り上げ代金の形で回収することができ、本来の目的が達成されるのです。
このように商業資本は、まず貨幣の形態で投下されて商品の形態に移り、その後再び貨幣の形態で回収されてその運動を完了するのです。
問題は小売商がこのような商業を営むのは、ただたんに商品の売買をおこなうためではないのは言うまでもないでしょう。このような運動を通して利潤を得ることが目的なのです。
このような商業を営み得た利潤を商業利潤といいます。
ではいったい、この商業利潤はいかにして生まれるでしょうか?
商業の形態からみれば、はじめに仕入れ資金として投下した貨幣よりも多くの貨幣を商品の販売によってもたらされたものであるこてはまちがいないでしょう。すなわち、商品の仕入れ資金と商品の販売額の差額が商業利潤をなしているのです。
いいかえれば、仕入れた値段よりも高い価格で販売することによって成り立っているのです。
このように商業利潤は「安く買って高く売る」行為によって得たようにあらわれるのです。
しかし、このような外観上の捉え方では科学的ではないのです。
そこで、商業利潤の源泉を明らかにするためにもう一度、商業という活動の基本的な役割に立ち返って考えてみることします。
先にみたように、そもそも商業は商品が生産者から消費者に販売されるまでの流通過程が、資本の独自の営業活動として営まれるのです。要するに、もともとは生産者が直接おこっていた販売行為が、これを専門的におこなう別の業者によって代行されていつということなのです。 商品を販売するというのは、商品を他人に譲り渡して、その代価として貨幣を手に入れるということですが、この貨幣は商品のなかにすでに含まれていた価値が姿を変えたものにすぎません。
だから、小売商が商品の販売にどんなに力を費やしても、それによって商品の価値そのものは少しも増加しないのです。商業活動はあくまでも商品を貨幣に転換させることだけなのです。
このようなわけで、商品を生産者から仕入れて消費者に売るという商業活動は、商品に新しい価値を付け加えることはできないのです。だから、商業資本の活動は、それ自体としては商業利潤の源泉になりえないといえます。
社会的にみれば、利潤は産業資本に雇われた労働者の生産的労働によってつくり出された剰余価値以外にありません。商業利潤は、この剰余価値の一部が商業資本によって取得されたものなのです。
それでは、どのようなメカニズムによって産業資本のもとでつくり出された剰余価値の一部が商業資本の利潤となるのでしょうか。
この点については次回に解説することにします。
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