周知のように、トランプ米国大統領は自動車および自動車部品に対する25%の一律関税とともに、輸入相手国に対して、高率の相互関税を発動しました。
トランプ政権は、相互関税に対し発動直後に90日間の停止を発表したのですが、これを受け世界の株式市場は乱高下を繰り返しており、貿易戦争への拡大と世界同時不況への懸念が依然高まっています。
今回は、今、世界が最も注目している「トランプ関税」に対する理解を深めるために、国際貿易取引についての基礎的問題を取り上げます。
・貿易収支とは何か
まず初めに、そもそも、貿易収支とは何かについて簡単にまとめてみましよう。
貿易収支とは、一国の輸出額から輸入額を引いた額のことです。輸入額より輸出額が多い場合は貿易黒字であり、反対に輸出額より輸入額が多い場合は貿易赤字になります。
例えば、直近の日本の貿易収支を見ると、今年1月の場合、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は2兆7588億円の赤字でした。輸入の伸びが輸出の伸びを上回り、赤字幅は前年同月から56.2%増加しました(財務省統計)。2月は、輸出額は前年同月比10.4%増の9兆55億円、輸入額は1.9%減の8兆2926億円だったので、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は7129億円の黒字だったようです。
貿易収支は国の経済状況を示す重要な指標で、一般的には貿易収支が黒字の場合は経済にプラスの影響を与え、逆に赤字の場合は経済にマイナスの影響があるとされています。
貿易収支が黒字の場合は国内の企業が海外市場で競争力を持っていると考えられ、その反対に赤字の場合は国内産業が海外市場で競争力を維持出来てない可能性があると示唆されるなど、国の経済活動や健全性の目安とされます。
また、貿易収支は国のGDPに直接影響を与えます。貿易収支が黒字の場合、GDPが押し上げられ、赤字の場合はGDPが押し下げられます。
貿易収支は為替相場にも影響を与え、貿易黒字が増えると、その分相手の国から受け取る外貨が増え、日本の場合、それを日本円に交換するために外貨を売って円を買うことになるので、円高圧力が高まります。
とりわけ注目されるのは、今問題になっている経済政策への影響です。政府は貿易収支が赤字の場合、輸出促進策や輸入制限など、様々な政策を講じて相手国に対して圧力をかけることがしばしばあります。その代表的な措置が相手国に対する関税です。
関税とは、海外から輸入されるモノに対して掛ける税金のことです。関税を掛けることによって、自国内の産業と自国産品保護するのです。
以上のように、貿易収支は国の経済状況を把握し、経済政策を検討する上で重要な指標なのです。
・自由貿易と保護貿易
貿易取引は一般的に自由貿易と保護貿易に区別されます。
自由貿易とは、国同士が互いに通商障壁を撤廃し、自国内外の企業が平等な条件で競争できるようにすることです。言い換えれば、国際間での商品やサービスなどの取引を、保護主義的な政策を排除し、関税や制限措置を最小限に抑えた状態で行うことを指します。
自由貿易により、海外市場への輸出が増えることで、各国の生産や雇用が拡大し、輸入によって消費者は、より多様な商品を低価格で購入できるようになります。また、国際分業が進むことで各国が得意とする産業に特化し生産効率を向上させることによって、世界全体の経済成長を促進させるというメリットがあります。
その反面、自由貿易が進むことで、競争力の低い国内産業は海外からの安価な輸入品による圧力にさらされ、これにより失業が増加し、国内産業が衰退する恐れもあります。
そこで、国内の企業を保護するための政策として取られるのが保護貿易政策です。
保護貿易は、国内産業を海外からの競争から守るために、関税や輸入制限などの通商障壁を設けて外国製品の輸入を制限する政策です。保護貿易政策は、関税や輸入量規制などの手段を通じて、自国産業の競争力を維持し、国内市場の安定を図ろうとするのです。また、このような政策により雇用を守り、国内の技術革新や投資を促進させようとするのです。
しかし、保護貿易には消費者や他国への悪影響も伴います。関税が高くなることで、輸入品の価格が上昇し、国内の消費者の負担が増えることや、相手国にとっては輸出が制限されるため、相手国の報復措置を招き、貿易摩擦や「貿易戦争」が発生しやすくなります。
かつて、各国が関税の引き上げなど保護貿易主義が広がり、国々の対立や不況を招いた「貿易戦争」が第2次世界大戦の一因にもなったと言われています。
・貿易政策と貿易摩擦・貿易戦争
貿易摩擦は特定商品の競争力の差から、輸入が急増すると同時に国内の同産業に減産・失業・倒産などが起こることや、貿易相手国との貿易収支の不均衡が国内経済に悪影響を及ぼすと見られることによって両国間に摩擦が生じることです。
自由貿易のもとで一方の国の産業が打撃を受ける貿易摩擦が引き金となり、国家間で輸入制限などの応酬が続く状態を「貿易戦争」と表現しています。
かつて、高度経済成長期の1960年代以降に日本の輸出が急増し、主に米国との間で鉄鋼や自動車、半導体などの品目を巡る貿易摩擦が発生したのですが、日本は米国などでの現地生産の拡大のほか、オレンジやコメの輸入自由化を受け入れ、決定的な貿易戦争には至らなかったのです。
保護貿易主義と貿易戦争が第2次世界大戦の大きな原因になったとの反省から、国際社会は1948年に「関税と貿易に関する一般協定」(GATT)を発行させ、95年に国際機関の「世界貿易機関」(WTO)が発足しました。しかし、全会一致を原則とする「WTO」のルール作りは難航し、近年では2国間で結ぶ「自由貿易協定」(FTA)を重視する国が増えているようです。
このように、戦後の世界はかつての深刻な反省のもと、自由貿易を進める方向で進んできたと言えます。
しかし、21世紀に入って世界経済は巨大化した金融市場や為替の不安定、世界的な地域格差の拡大など様々な問題に直面しているのも事実です。
2008年、世界は米国発の国際金融危機(リーマンショック)に見舞われ、そこからの回復を図る中、太平洋に面する諸国の中から自由貿易協定締結の動きが出て、「環太平洋パートナーシップ」(TPP)が成立しました。
ところが、2016年11月の米国大統領選挙で当選したトランプ大統領は翌年に「TPP]からの脱退を表明し、「アメリカ第一主義」を掲げて自国の利益を優先する経済・貿易政策に転換することを明確に示したのです。
さて、このように理解すると、今回の「トランプ関税ショック」とも言われているトランプの関税措置は自由貿易主義からの歴史的転換を招きかねない重大な事変と言えるのではないでしょうか。
世界の株式市場は乱高下を繰り返し、混乱を招いているのですが、世界貿易戦争と同時不況への懸念が高まっており今後の行方が大変気なるところです。

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