昨年の「令和のコメ騒動」以来、コメの価格が急騰し、その後も高止まりで一向に下がる気配が見えないでいます。そんな中、去る2月14日、やっと農水省が重い腰を上げ政府備蓄米を21万トン放出すると発表したのですが、果たして効果はあるのか、コメの価格がどこまで下がるのか、国民の大きな関心を呼んでいます。今回は「令和のコメ騒動」とそれ以来のコメ価格の高止まりは一体何故起こっているのか、そして今後の見通しについて探ってみたいと思います。
・最高値に迫るコメ価格の高騰
農林水産省の発表によると、2024年産米の今年1月の卸値(相対取引価格)は、全銘柄の平均で1俵(60キロ)あたり2万5927円で、前年同月比69%上昇し、比較できる1990年以降で最高値となりました。昨年の12月に比べても5%上昇しています。
また、24年産が出回り始めた昨年9月から今年1月までの平均価格は2万4055円で、いわゆる「平成のコメ騒動」が起きた1993年産の平均株価(2万3607円)を上回り、過去最高を更新しました。
産地別の代表的な銘柄を例にとると、北海道産「ななつぼし」は88%上昇の2万9409円、秋田産「あきたこまち」は80%高い2万7671円、また新潟産「コシヒカリ」は39%高い2万3471円という有様です。
総務省の「小売物価統計調査」によると、2023年に東京都区内でコシヒカリ5キロが平均2300円台で販売されていたのですが、2024年に入っても4月は2384円でしたが、7月に入ると2600円台を突破してからは急激に上昇し、11月には3985円、12月には4018円に達しました。
昨年、農水省は新米が出れば価格は落ち着くと楽観的な見通しを繰り返していたのですが、先述したように価格は高騰の一途をたどり今年に入っても高止まり状態が続いているのです。
周知のように、現在も東京ではコメ5キロの小売価格が4000円から5000円台と異常な高値にあります。
農林水産省の発表によると、2月上旬にスーパーで販売されたコメ5㎏あたりの平均価格は、前年同期と比べて1811円高い3892円になり、9割近く価格が上昇しているのです。
要するに、昨年から続くコメ不足とそれに伴う価格の急騰、「令和のコメ騒動」とも呼ばれているこの現象は半年以上も続いており、いまだに解決の兆しが見えないのです。
・価格高騰と高止まりの原因
先述したように、スーパーの商品棚から突然コメが消え、メディアが「令和のコメ騒動」と煽るなか、パニック買いした人も多くいたのですが、実はこの事態、供給と需要の変化がもたらしたコメ争奪戦の最終局面だったのです。
というのも、23年産のコメは生産調整(減反)の推進を背景に生産面積を減らし過ぎたため、主食用の生産量は農林水産省の見通しより8万トン少ない661万トンだったようです。
他方で、23年の7月から24年6月のコメ需要量は702万トンでした。これは農林水産省が予想した680万トンより22万トンも多かったのです。需要増になった要因として、物価高の中でコメの割安感があったことや、新型コロナの影響で落ち込んでいた需要の回復、そして昨今の訪日外国人の増加などでコメの消費拡大に拍車をかけたことなどが言われています。
問題は、このような需要の変化に何故供給が対応出来なかったのかということです。見通し以上の需要増による一時の現象として捉えることは決して出来ない根強い問題が横たわっているのです。
要するに、深刻なコメ不足は需要に対する生産量が非常にタイトで、コメが余らないギリギリのところで生産を調整しようとしたため、消費の変動をカバー出来なかったわけです。
かつてから政府はコメ余りをなくそうとして、収穫量を減らす「減反政策」を強行してきたのですが、2018年に廃止されたとはいえ、事実上は形を変えて今も続いているのです。というのは、主食用米から大豆や家畜に食べさせる飼料用米への転作を促す補助金政策を通して、水田を畑に変えて減反を強行してきたのです。その結果、21年産まで700万トン以上はあった食用米の収穫量が22年産は一気に30万トン減の670万トンに、23年産は661万トンまで減少したのです。
結局のところ、すべてはこれが原因であって、もし、23年産が700万トンであったなら、たとえ需要が予想より20万トン増えたところで、大した影響はなかったはずです。
コメの生産量を毎年10万トンを目安に減らし、生産を需要に見合った量に抑えて米価を維持し、その反面、生産量に余裕がないので、ちょっとしたことでコメ不足になるのです。これが昨年来の「令和のコメ騒動」の実体なのです。
今回のコメ相場の混乱は、国民の主食であるコメがマネーゲームの対象になり投機的な振る舞いが横行したこととも関連していると見る分析もありますが、高値相場による「ひと儲け」に期待を抱き、いわば価格のつり上げが横行したにも関わらず、この事態を静観した農水省にも責任があると言わざるをえません。政府が保有する約100万トンの備蓄米をいつでも市場に流せるというスタンスをもっと早く見せていれば、需給緩和が進むという観測が立ち、ここまでの高騰につながらなかった可能性が高いのです。
とは言え、より大事なことは、そもそも転売や投機の対象になりコメ市場をかく乱させたのも、市場に十分なコメが行き渡っていないからこそ起きたのであって、価格高騰の根本的な要因は供給不足にあったのです。市場に十分なコメが行き渡っていないからこそ、転売や投機の動きが活発化するのであり、供給が安定していれば転売が成立しないことは市場の基本原理なのです。
・政府備蓄米放出の効果は?
農水省は主食用の円滑な流通を目指し、政府備蓄米の放出に向けた入札を3月に始めるとしていますが、卸売業者に販売されるのは3月中旬で、スーパーなどの店頭に並ぶのは3月下旬以降の見通しのようです。遅すぎた感を拭いきれないのですが、この処置に対してコメの価格がどこまで下がるのか大きな注目が集まっています。
しかし、専門家によれば疑問視する見方も少なくないようで、コメの高騰が明らかになった昨年の夏に放出を決めていれば今ほど価格は高騰しなかったと、静観していた農水省に対する疑念が少なくないようです。多くの専門家は備蓄米が放出されるのは高値で売り抜けようと考えている集荷業者や卸がため込んでいるコメを吐き出させるためであって、コメの小売り価格をもとの2300円台に戻すためではないと見ているようです。
事実、農水省はコメが高騰している理由が、コメは充分に供給されているのに卸業者や集荷業者がコメをため込んでいるためとして、「コメの流通を円滑化するために備蓄米の放出を行うと断言していおり、価格については「市場で価格が決まるべきもの」と責任をとらない姿勢を明確にしているのです。要するに、限定的な放出でもコメは流通すると農水省が判断すれば、消費者が納得する価格帯までは下がらない可能性もあるということです。
今回の備蓄米の放出の効果は限定的であるという受け止め方が少なくないのですが、その理由として言われているのが、備蓄米を原則1年内に買い戻すことを前提にしていることです。そもそも供給が不足している状態で一時的に備蓄米を放出しても、買い戻しにより、いずれ供給不足に陥いり再び価格上昇を招くことは想像にかたくないでしょう。
いずれにせよ、コメ価格維持を目的として実質的に継続している強引な減反を廃止し、根本的に供給を増やすことへ舵を取ることなしには、今の深刻な状態は改善されないことが予想されます。
加えて、減反政策により衰退しつつあるコメ農家の収入に対する補填などの補助政策を一刻も早く検討されるべきではないかと痛感している次第です。

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