周知のように、政府は3月から価格を下げる狙いで備蓄米を放出しましたが、相変わらずコメの価格は下がるどころか、逆に上がり続けています。まさに、焼け石に水というようにまったくと言っていいほど、効果が表れていないのが実情です。ちょっとした謎めいた現象が起こっており消費者にとって理解しがたい現実に首をかしげざるを得ません。そこで、一体何が問題なのか、コメ価格の異常な高騰の行方についてまとめてみます。
・政府備蓄米の放出とコメ価格の現状
周知のように、コメの高騰を受け政府は2月に政府備蓄米を放出する決定を下し、3月からすでにこれまで3回の入札が行われ、計31万トンが落札されました。放出された備蓄米は全国農業協同組合連合会(JA全農)が放出分の9割以上を落札したようです。
ところが、この落札された備蓄米が卸業者や小売サイドには十分に出回っておらず、消費者の手に届いてないのが実情なのです。
例えば、3月中に入札が行われた21万トンの備蓄米のうち、5月1日時点で卸売業者に出荷したのは29%(約5万7千トン)に留まっており、農林水産省が備蓄米の流通量が一部にとどまっていることから、JA全農に対して速やかに取引先との調整を進め、供給を拡大するよう要請する始末なのです。
備蓄米の流通には事務手続きやトラックの輸送手配のほか、卸売業者の段階で精米や袋詰めに時間がかかっていることが遅れている要因とも言われているいるのですが、それにしても遅すぎではないかとの印象は拭いきれないでしょう。
JA全農は、「出荷依頼があった取引先には届けている」、「販売先の契約はすべて終わっているが、およそ7割が倉庫で出荷を待っている状態」としながら、「流通は順調に進んでいる」とコメントしているのですが、どう見ても流通が順調に進んではいないというのが国民の実感ではないでしょうか。
小売り側では「備蓄米は注文しているが、まだ入ってきてない」というところが大半のようです。
はたして、すでに放出された31万トンの備蓄米はどこにあるのやら、一見奇妙な事態が起こっていると言わざるを得ません。
備蓄米の流通が停滞する中、コメ価格は下がるどころか高騰の一途を辿っています。
農水省の発表によると、3月の米価格(相対的取引価格)は2万5876円で、1年前の約2倍の高値に至っています。また、直近の4月21日から27日に全国のスーパーで販売されたコメ5キロあたりの平均価格は前週より13円高い4233円で販売、17週連続で最高値を更新しました。
政府は備蓄米を放出したのですが、小売業者になかなか届かず、コメ価格の高騰は止まらない状況で、韓国産やアメリカ産の輸入拡大も検討し始めていると言われています。
・消費者に行き届かないのは何故?
昨年夏以来、新米が出るころには品薄と価格高騰は解消されると農水省は繰り返してきたのですが、一向に解消しないまま今日に至っている「令和のコメ騒動」、今度は需給がひっ迫している状態を打破するために十分な備蓄米が放出されれば、コメ不足は解消されコメ価格は安定すると豪語していたのです。しかし、その目論見は今のところ全く的外れになっています。
農水省は需要に見合うだけのコメの量は確実にあると明言したうえで、「流通がスタック(停滞・滞留)していて、流通に問題がある」と強調しているのですが、要するに以前から繰り返しているように、流通に関与する業者や勢力が価格上昇を狙って悪だくみをしている可能性を示唆しているのです。
しかし、もしこのような一部業者による買いだめなどの価格つり上げ行為があるとしたら、そもそも根底に需給ひっ迫によるコメ価格の不安定性が存在するからではないでしょうか。要するに、消費者にいきわたる十分なコメがないから、主食であるコメが投機の対象にもなり得るのです。
再三指摘されているように、長らく日本は減反政策を続けてきており、過剰生産を脱しても減反を事実上続けてきたのです。コメの価格維持を守るための減反政策により、作付け面積は減る一方で気候変動の継続などによる不作のため、民間在庫はどんどん減少して、ついには「コメ不足」を招くという、いわば日本の農政の構造的な問題が根底にあるのです。
ちなみに、昨年のコメ農家の倒産と休廃業・解散が統計を開始した2013年以降、最多の89件に達しており、今年に入ってもすでに2件の倒産が発生し、コメ不足で生産農家が苦境に陥る異常事態になっているのは、まさに日本農政の構造的問題を象徴しているのではないでしょうか。
今回の備蓄米の放出についても、主食のコメ価格の異常な高騰を解消するため、スピード感をもって対処することが望まれているのですが、一部大手による落札など、従来の流通システムそのものが今の緊急事態にそぐわないのも確かでしょう。備蓄米の放出そのものが遅きに失した点も指摘されていることながら、その仕組みそのものへの疑念も少なくないようです。
品薄や価格高騰といったコメ問題が一向に解消されず、ずるずると長期化していることについて、消費者のいら立ちは高まり、政府の対応についての批判が高揚しつつあるだけに一刻もはやい措置が望まれているのです。
・コメ価格の行方
さて、このような状況下で、一体コメ価格の高騰はいつになったら解消されるのでしょうか。
今のところ、方策としては備蓄米を放出し続けることと言われているようですが、今年の新米が不作ではないとの見通しがたてば、コメ価格は緩やかに下がり始めるのではないかとみられています。
それでも下落幅としては20%程度で、それ以上は下がらないのではとみられている節が大勢のようです。要するに、昨年の水準はもとより3000円以下のレベルには戻らないということです。
新米が本格的に流通に出回るのは8月で、それまで政府備蓄米が放出し続けられることで、その効果が順調に得られるならば、その範囲での下落は可能性としてはあると思われます。
その一方で懸念材料として、今年も猛暑が予測されているのも事実です。
もし、猛暑による高温障害が発生し、25年産米が不作になると、その先に待っているのは一層のコメ価格高騰や、あるいは輸入米の大量流入など不安視されているのも事実です。
ただ先述したように、今回の「令和のコメ騒動」が農政の構造的問題が元凶だとすれば、短期的な需給調整だけでなく、むしろ長期的な視点で根本的に供給力を高めるような政策に転換していくことも同時に施行していくことが要求されるでしょう。従来の減反政策を見直し、国民の主食であるコメを国の責任のもとで、安全に供給できるような体制作りをすることが何より重要ではないでしょうか。

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