先日の報道によると、厚生労働省の審議会は最低賃金の全国平均の目安を1054円と決めたようです。
過去最大と言われていますが、労働者側にすれば決して満足のいく水準でもないようです。
そこで、今回は最低賃金制度とは何か、そして日本の最低賃金の現状を振り返り、今回の最低賃金の引き上げをどう見るべきかについてまとめてみます。
・最低賃金法と最低賃金制度
最低賃金の現状をみる前に、最低賃金とは何か、それはいかにして決められるのか、その制度について確認しておきましょう。
最低賃金は労働基準法第28条で最低賃金法の定めるところによるもので、この最低賃金法に基づいて労働者に支払われる最低限度の賃金のことです。
最低賃金法に基づき国が賃金の最低限度を定め、雇用主はその最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないとする制度を最低賃金制度といいます。
日本で最低賃金法は1959年に公布されたのですが、それ以降、従業員を雇う雇用主は労働の対価として労働者に最低賃金額以上の給料を支払うことを義務付けられることになったのです。なので仮に最低賃金額より低い賃金を労働者と雇用主双方の合意の上で定めても、それは法律によって無効とされ、最低賃金未満の賃金しか支払わなかった場合は、最低賃金額との差額を支払うことが義務付けられており、最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合は一定の罰則が適用されるのです。
最低賃金の金額は物価水準などの違いなどもあって、都道府県ごとに設置されている最低賃金審議会による審議を経て毎年改定されます。
最低賃金法の対象となるのは、正社員だけでなくパートやアルバイト、派遣社員など雇用主と雇用契約を結ぶ労働者全員です。
最低賃金の金額については、時間給として定められているのですが、時間外割増賃金や、休日割増賃金、深夜割増賃金、そして賞与や通勤手当、臨時に支払われる皆勤手当や家族手当などは最低賃金の計算からは除外されます。要するに、労働者に対して支払われる基本給のみが最低賃金の対象となるのです。
最低賃金問題を理解するうえで不可欠なことなので付け加えると、最低賃金には都道府県ごとに定められている「地域別最低賃金」と特定の産業ごとに定められている「特定最低賃金」の2種類があるのです。マスコミなんかでよく拝見することですが、各都道府県ごとに最低賃金の差異があるのを見かけますよね。それは、各都道府県ごとに設置された審議会によって、その時々の物価水準などを踏まえて決めた最低賃金の違いなのです。
「地域別最低賃金」は、その都道府県で働くすべての労働者に適用されるのであって、正規雇用はもとより、パートやアルバイト、臨時・嘱託といった雇用形態に関係なく、また、外国人労働者も含め国籍や年齢、性別にかかわりなく、すべての労働者に適用されることも確認しておきます。
・最低賃金の現状
さて、それでは日本の場合、最低賃金の現状はどうなっているのでしょうか。
前述のように最低賃金は毎年改定されるのですが、厚生労働省の諮問機関である中央最低賃金審議会が示す目安額を参考に、各都道府県の審議会が8月ごろに実際の引き上げ額を決め、10月以降に適用されます。
それで今回(7月24日)、中央最低賃金審議会が2024年度の最低賃金引き上げ額の目安を50円とすることで合意したのです。
ということは、現在、最低賃金の全国平均の1004円から、1054円に引き上げられるということです。これは5.0%の引き上げになるのですが、引き上げ幅、引き上げ率ともに過去最大となります。
これにより、新たに8道県で最低賃金が1000円台になり、結果16都道府県が1000円台に達することになるとのことです。
現在の全国平均が1004円と言われていますが、さかのぼってみると、2002年度には663円だったので、約20年間に341円しか上がってないことになります。
とりわけ、注目せざるを得ないのは、世界の最低賃金水準に比べると日本は先進国のなかでも最低レベルなのです。例えば、オーストラリアは2023円、イギリスが2102円で日本の2倍程の差があるのです。ドイツやフランスに比べても日本の低さが際立っており、隣の韓国でさえすでに1100円を超えているのです。
勿論、物価の違いもあり単純に比較はできないかもしれませんが、それにしても日本の最低賃金の低さが目につきますね。
今回の50円アップに関しても決して労働者にとっては満足のいくものではないようです。
物価の上昇がとどまる気配がなく、生活苦が日に日にましている状況で、50円の引き上げでは到底足りないとしか言いようがないでしょう。
・現状の最低賃金と「相対的貧困」
仮に、過去最大と言われる今回の引き上げの1054円で計算してみると、1日8時間で月20日間の160時間働いても年収は200万円未満でしかなりません。厚生労働省の調査ではフルタイムの平均給与は月額約31万円(2023年時点)あり、160時間で割ると自給は約1900円になります。つまり、1054円というのは平均賃金の5割強にとどまる水準だということです。
普通の生活水準と比較して下回っている状態である「相対的貧困」のラインは1人世帯では年収120万円程度で、両親と子供2人の4人家族では約240万円が基準となり、4人家族だと月収はおよそ20万円以下となります。つまり、最低賃金で働いた場合、相対的貧困層に入る可能性が極めて高く、最低でも自給1,500円~1600円まで上げないことには「普通の生活」は出来ないと言えます。
昨今の物価高を含めて考えると、最低賃金の目標として1054円はあまりにも少なすぎと言えるでしょう。
2007年に改正された最低賃金法によると、労働者の生計費を考慮するにあたっては、労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことが出来るようにすべしと規定しています。
労働者の健康と生活の安定をうたった最低賃金法の理念からしても、現状の最低賃金がはたして妥当なのかを問うことが望まれるでしょう。
日本では最低賃金の引き上げがもたらす負の側面が、やたらとやり玉に挙げられたりするのですが、「ワーキングプア」が増え続けている現状を直視し、労働者の生活安定と労働力の質的向上、しいては国民経済の健全な発展に寄与すべく、最低賃金の見直しを再度検討すべきではないでしょうか。
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