言うまでもなく、日本の人口減少が定着して久しいのですが、にわかに経済への悪影響が表面化しつつあるようです。人手不足の深刻化やそれによる企業倒産も目立ち始めており、社会全体のあり様に様々な変化が起こりつつあります。
生産年齢人口の減少や少子高齢化の加速、それがもたらしている経済への影響など、人口問題にかかわる諸問題が深刻化しており、昨今の「年収の壁」や年金制度の見直し、最低賃金の引き上げなども人口減少が加速化していることと無関係ではないでしょう。
いわゆる「人口減少経済」の今について、その実態と問題点についてまとめてみます。
・深刻な人口減少の実態
あらゆる変数が複雑に影響しあう経済現象の行方を正確に予測することは決して容易くないのですが、様々な経済指標の中でも最も予測可能で、かつ最も影響力が大きいと考えられる変数が人口です。
今更ですが、日本の人口動態をみると、あきらかに人口減少が定着し、かつ急速化しつつあることがわかります。そこで、改めて人口減少のあり様を確認しておきましょう。
総務省の統計によると、2007年に1億2777万人とピークを迎えた日本の人口は、それ以降は緩やかに減少し始め、2024年1月の時点で日本人の人口は1億2156万人となり、前年に比べ約86万人減り、減少は15年連続で、前年比の減少幅は1968年の調査開始以来、最大となりました。外国人を含む総人口は1億2488万人で、日本人の減少幅が外国人人口の増加分を上回り、その結果、総人口は前年に比べ約53万人の減少になりました。人口が減り始めたのは2000年代後半以降なので、すでに20年近く減少局面に入っていることになります。
これを年齢区分別にみると、15歳未満人口は前年比32万9000人減の1417万人、生産年齢人口と言われる15歳~64歳人口は、前年比25万人減の7395万人、65歳以上人口は、前年比9000人減の3622万人、そして75歳以上人口は、前年比71万人増の2007万人で、初めて2000万人を超えました。
総人口に占める割合は、15歳未満が11.4%、15~64歳が59.5%、65歳以上が29.1%、その内75歳以上が16.1%で、「高齢者人口」と言われている65歳以上の総人口に占める割合は過去最高になり、75歳以上も過去最高となりました。このままいくと、来年の2025年に高齢化率は30%に達すると言われています。その一方で、15歳未満の人口は過去最低を更新しており、まさに「少子高齢化」が一層進行していると言われている所以でしょう。
ちなみに、厚生労働省の発表によると、2023年で出生数は、前年比4万3400人減の72万7200人で過去最少を更新しており、1人の女性が生涯に産む子供の数を示す、「合計特殊出生率」は1.20となり、8年連続で低下しているのです。
このような数字からみると、今後、この人口減少は加速化していくことが予測できます。
人口減少の速度を算出してみると、2010年~2015年までの5年間における人口の年率増減は0.15%減、2015年~2020年の5年間も0.15%減と緩やかな減少に留まっていました。しかし、その後の2020年~2025年の5年間でみると0.46%減、2025年~2030年は0.52%減、2030年~2035年は0.59%減2035年~2040年0.66%減と、明らかに日本の人口は今後加速しながら減少していくことがはっきりと見て取れます。
この流れからみると、2000年を100としたとき、2020年に99.1、2030年に93.8、2040年に88.1、2050年には82.2まで減少するということです。
このようにみると、2024年から2025年は人口減少が加速していく入り口に立っていると言えるでしょう。
・人口減少と労働市場への影響
以上のように、直近の人口動向は人口減少と高齢化の進行を浮き彫りにしており、それが今後一層加速していくことがわかります。とりわけ、生産年齢人口の減少はこれからの経済活動に大きな影響を与えることが予測され、75歳以上の人口の増加は社会保障システムへの負担増加を示唆しています。
なにより、最新の人口動向は日本の労働市場に大きな影響を及ぼしており、今後もその影響は増大することが予測されます。特に、「生産年齢人口」と言われている15歳から64歳の人口が減少していることは労働力の縮小を意味し、将来的にはさらに多くの産業や企業が人手不足に直面することは避けられないでしょう。すでにその兆候ははっきりとあらわれており、人手不足による企業倒産は直近の2024年度も年間として過去最大を上回るペースで推移しているのです。
先の衆院選挙をきっかけに「年収の壁」や「年金50万の壁」が一気に世間の注目を浴びているのも、このような生産年齢人口の減少と労働力の減少が背景としてあるのでしょう。
また、高齢者人口の増加、特に75歳以上の人口が増えていることも、労働市場に大きな影響をもたらすでしょう。高齢者の増加は、医療や介護などのサービス需要が増える一方で、これらのサービスを提供するための労働力が不足するという新たな問題を引き起こすことが考えられます。医療や介護業界では人手不足がさらに深刻化し、質の高いサービスの提供が難しくなる可能性も否定できないでしょう。ちなみに、2025年には介護福祉士が全国で約38万人不足すると予測されています。
加えて、若年層の減少は、新しいアイデアやイノベーションを生み出す潜在能力の減少を意味し、長期的に見て国際競争力の低下につながる恐れがあるのです。また、若年層が減少すると、労働市場に新鮮な才能や創造性が供給されにくくなり、経済の活性化が阻害される可能性もあるのです。
さらに、生産年齢層の減少と高齢者人口の増加は、社会保障制度への負担増加にもつながるのですが、労働力が減少することで社会保障費の負担を支える人口が減り、1人当たりの負担が増大します。これは将来の労働市場において、より多くの財政的負担が労働者にかかることを意味し、消費意欲の低下や、投資意欲の減退につながる可能性もあるのです。
このように、減少し続ける人口動向は、労働市場に多岐にわたる影響を及ぼし、企業にとってはこれらの課題に対処するための戦略が急務になってくるでしょう。
・生産年齢人口の減少と内需の不振
人口減少が定着しつつある状況では、日本社会全体の縮小が避けられないのですが、とりわけ懸念されるのは生産年齢人口の減少により内需の構造的不振が根付いてしまうことです。総人口の減少も問題ですが、より注目すべきは生産年齢人口の変動なのです。
生産年齢人口は、経済学的に定義された「現役世代」の数で、15歳から64歳までの人口のことですが、社会全体の消費の柱でもあるということで「消費年齢人口」とも呼びます。
上でみたように、今後この生産年齢人口の減少が総人口の減少より早いスピードで進んでいくことが予測されているのです。15歳未満の子供や65歳以上の高齢者を加えた総人口の減少よりも、「現役世代」である生産年齢人口の減少の方がより早いという、この最も重要な現実を直視すべきなのです。
生産年齢人口の減少に伴う就業者数の減少は、必然的に社会全体の所得の減少をきたし、その結果、深刻な内需不振と消費不振を招くことが予想されます。そして国内総生産(GDP)の6割を占めている個人消費の慢性的不振によって、経済成長にも影響をきたすことになるのです。
また、生産年齢人口が減少を続けることで、構造的内需不振が国内の雇用の大部分を占める内需型産業は恒常的に供給過剰状態になり、業績不振に陥る可能性も高くなることが予想されるのです。
景気対策さえしっかり立てれば人口構造がどう変動しようとも経済は再び成長するといった考えや、景気循環に対処するための方策だけでは、いずれ通用しなくなるのではと憂慮せざるをえません。
今後も生産年齢人口が一方的に減っていくことが予測される日本経済、はたしてどのようなことが起き,そして様変わりしていくのか、悩ましい限りです。
言えることは、人口減少の現実をいつまでも軽視していいはずはないということではないでしょうか。
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