日本はもとより世界に衝撃を与えている「トランプ関税」ですが、90日間の停止措置により、米国との交渉と今後の行方が注目の的になっています。そんな中、「交渉の列の先頭にある」とされている日本の対応が問われています。
「トランプ関税」発動以降の現状と日本経済への影響、そして日本の今後の対応はどうあるべきかについてまとめてみます。
・朝令暮改の「トランプ関税」
周知のように、去る4月2日の「トランプショック」とでも言うべき「相互関税」の発動で世界に衝撃が走りました。「トランプ関税」が発表されると、たちまち日本を含め世界の金融市場は大混乱に陥り、とりわけ、米国の金融市場は深刻で、株安、債券安、ドル安の「トリプル安」が米国を襲いました。
トランプ政権は4月9日、発動したばかりの相互関税の上乗せ部分を90日間停止する一方で、米国に対して断固とした報復措置に出た中国に対しては停止どころかさらに引き上げると表明、関税政策はもっぱら中国をたたくためのものと位置付けし直した格好になったのです。
報復措置を打ち出した中国にはより厳しい措置を打ち出す一方、報復措置を打ち出していない国には上乗せ関税の一時停止措置を示すという対応の違いを明確にすることで、中国に対して相対的に厳しい姿勢を示すとともに、中国に続いて報復関税を検討する国に対して、それを牽制する狙いもあるようです。
トランプ大統領は「75か国以上が貿易障壁や関税、通貨操作などに関して問題の解決策を交渉するよう求めてきている」と、自身の関税政策が各国の譲歩という成果につながっているとアピールし、米国に対して報復措置をとっていない国について、相互関税の一時停止を認めると説明していますが、株式や通貨に加えて安全資産とされていた米国債まで売られる予想外の「トリプル安」の発生に困惑したことが背景にあるのは間違いないでしょう。
ところが、トランプ政権にとって予想外に米国の国内経済の悪化が明るみに出ていることや、中国をはじめ相手国の対抗姿勢が強いこともあって、ここへきてトランプ大統領自身も各国との協議に関し「今後3~4週間で全体の結論が出るだろう」と、早期に成果を出したい考えをにじませており、関税に対する軟化の姿勢が伺えるのも事実です。
また、中国に課している関税についてトランプ大統領は、現在の145%から「大幅に下がっていく」との見通しを示しており、トランプ政権が中国への追加関税を、現状の半分以下の50~65%程度にまで引き下げることを検討していると報じられています。
まさに、朝令暮改の様相としか言いようがなく、今後の行方が懸念されます。
・「トランプ減税」の影響
トランプ大統領は、日本についても米国の車メーカーの日本市場への参入規制を非関税障壁として挙げながら、非関税障壁などを含めると、実質的に米国に46%の関税をかけているに等しいと認定し、46%のおよそ半分にあたる24%の相互関税を課すことを明らかにしました。
当然、今回の「トランプ関税」は日本経済全体への甚大な影響も懸念されています。予定通りの高関税が課せられれば、国内生産は一気に減少し、日本の実質国内総生産(GDP)が最大で0.5%~1.0% 押し下げられるとの試算も出ています。
昨今、日本の実質GDPの年平均成長率が0.5%程度にとどまっているだけに日本経済にとって致命的な影響を与えることは避けられないでしょう。
とりわけ、日本の自動車産業にとって大きな打撃になるのは必至です。
米国の新車販売台数は約1600万台で、このうち日本メーカーは約3割のシェア(市場占有率)を持っているのですが、特に近年、円安の影響や高価な大型車が売れ筋の米国を稼ぎ頭に位置付けて注力してきただけに、25%の追加関税により、乗用車は27.5%、トラックは最大50%となるので、その景色は一変する可能性が出てきたのです。
日本からアメリカへ輸出された品目総額のうち34.2%が自動車および自動車部品で占められているほか、国内自動車メーカー10社の国内サプライチェーンは6万8485社(2024年11月現在)にのぼるとされており、主力市場であるアメリカで日本車が売れなくなれば、自動車産業界に激震が走るのは勿論のこと、日本の産業界全体への影響は甚大でしょう。
・問われる日本の対応
現段階において、トランプ政権による朝令暮改の関税措置で先行きは不透明ですが、日本はもとより世界経済へ大きな影響が及ぶことは避けられないと思われます。トランプ政権が、高関税政策を修正しない場合、米国経済は深刻な景気後退に陥り、世界経済全体が大不況に至る可能性が高いでしょう。
また、乱高下する世界の株式市場はさらなる混乱を招き、世界同時株安など金融危機が現実化することも否定できないでしょう。
そんな中、石油や鉄鉱石などの資源に乏しく、食料の輸入率も高い日本は、戦後、原材料を輸入し、家電製品や自動車などの製品を製造・輸出する加工貿易で、復興と経済成長を遂げてきたのであり、まさに自由貿易の恩恵を最も受けてきた国の一つと言えるだけに、「トランプ関税」の交渉にどう対処するかが問われています。
すでに、トランプ政権の追加関税を巡る交渉が始まっていますが、各国との交渉において、「日本が列の先頭にいる」と明言しているのですが、その真意が何なのかを深く吟味して対応することが望まれるのではないでしょうか。「日本を最重要視している」とか、「日本に対して特別な寛大措置」が期待できるということでは決してないはずです。
海外が保有する米国債8兆5,260億ドルのうち1兆ドル強を保有する最大の米国債保有国になっている日本に対して、日・米安全保障を盾に、米軍駐留経費の問題や対日債務問題など、関税をちらつかせて他の国以上に重い課題を押し付けられる可能性も否定出来ないのです。
日本のコメなど農産品の市場開放や検疫緩和に関心を示している米国側の要求に応じるかのように、日本政府も農産物に対する一層の開放を検討しているようですが、これは全くお門違いな話であって日本の農業をますます衰退へ追い込むことになりかねません。
トランプ関税の目的の一つとされている「貿易赤字の解消」という観点からすれば、確かに日本の対米貿易は約9兆円の黒字ですが、農林水産物・食品においては、現時点で約2兆円の赤字なのであって、日本が農業分野で譲歩する余地はないはずです。
「トランプ関税」が発動されて以来、徹底対抗姿勢を見せている中国やEU諸国に比べ弱腰の日本政府の姿勢に疑念を抱かざるをえません。
いずれにせよ、これから本格化する対米交渉の行方が大変気になるところですが、毅然とした態度で交渉に立ち向かうことを期待したいものです。

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