アプロ君のここに注目;最低賃金1500円は可能か?

経済
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先の衆議院選挙で多くの党が「最低賃金を近い将来に1500円に引きあがる」という公約を打ち出しました。昨今の物価高のなかで賃上げ問題が注視されているのですが、はたして今の現状からして1500円の最低賃金が現実的に可能なのか、世間の関心が集まっているようです。
そこで、今回は最低賃金制度とは何かを確認したうえで、その現状と問題点についてまとめてみたいと思います。

・そもそも最低賃金制度とは

最低賃金制度とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低限を定め、使用者(企業)は、その最低賃金額以上の賃金を労働者に支払わなければならないとする制度のことです。普通の賃金は企業の判断で設定するのですが、最低賃金の場合は政府が一律に決めて、企業はそれ以下の賃金で労働者を雇うことが出来ないように社会制度として施行するのです。この制度は、本来低い賃金で働く人が生活に困らないように、格差が広がらないように国が社会政策として決めているものです。

日本の場合、1947年に労働基準法が制定され、そこで最低賃金に関する規定が設けられていたのですが、具体的な措置として最低賃金法が制定されたのは1959年のことでした。
最低賃金法の制定により、最低賃金より低い賃金を労働者と企業双方の合意の上で定めても、それは法律によって無効とされ、最低賃金額と同様の定めをしたものとみなされます。
なので企業が労働者に最低賃金未満の賃金しか支払っていない場合には、使用者(企業)は労働者に対して、その差額を支払なくてはならないのです。もし、支払にに応じない場合は罰則が定められており、社会的な信用を失ってしまうこともあるのです。

最低賃金は労働者の生計費や類似の労働者の賃金、生活保護施策などの整合性などを踏まえて決められるのですが、これらは当然各地域によって差異があるため、最低賃金は全国一律で決められているのではなく地域別に定められているのが一般的です。
各都道府県の最低賃金がそれぞれ違いがあるのを、新聞などでよく見ることがありますが、地域別最低賃金は産業や職種にかかわらず、各都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に対して適用される最低賃金です。東京都や大阪府などの都市圏の最低賃金と東北や北陸などの地方の最低賃金はかなりの差異が見られますが、これは物価水準など労働者の生計費がそれぞれ違いがあることから、最低賃金も考慮されてのことなのです。
地域別最低賃金は、パートタイマー、アルバイト、臨時、嘱託など雇用形態に関係なく、各都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に適用されます。

・最低賃金の現状

さて、それでは日本の最低賃金の現状は一体どのようになっているのでしょうか。

直近の厚生労働省の発表によると、今年10月の改定(前年度比̟+50円)で1000円超の最低賃金を見ると、東京都の1163円を最高に、神奈川県の1162円、大阪府の1114円など首都圏をはじめ1000円を超えているのが16件です。
それに対して、最低賃金951円~953円が秋田県、高知県など9件で、上記の首都圏に比べ約200円程低く制定されています。
全国平均でみると、時間額で1054円で、平均より上が7件に過ぎません。

これを過去の歴史的な推移からみると、日本の最低賃金は過去数年間にわたり改定され着実に上昇していることがわかります。
例えば、直近5年間の最低賃金の全国加重平均の推移をみると、2020年が902円(+1円)、2021年が930円(+28円)、2022年が961円(+31円)を経て、2023年には1,004円(+43円)と初めて1000円台に到達ししました。そして、今年の2024年には+51円の1,055円と過去最高の水準に至ったのです。
こう見ると、直近5年間はおおむね3.3%~3.5%の上昇率でアップしており、今年は昨年に比べ約5%の上昇をみせているのです。

問題は、先に述べたように着実に上昇してはいるものの、海外の先進国と比べると日本の最低賃金は極めて低く、英国やドイツ、フランスといった主要先進国だけでなく、豪州と比べると2分の1以下に留まっています。また、20年前は韓国の2倍以上あったのですが、現在は韓国より1割近くも低くなっています。
物価の違いがあることに加え、引き上げ率も他国の方が日本より大きいことがその原因とされていますが、近年においては長引く円安も重なり、日本の最低賃金の低さが一層際立ってきているのです。
そこで、取り沙汰されているのが、「最低賃金1500円」への引き上げ問題です。

・高すぎる「最低賃金1500円」のハードル

先の衆院選挙では最低賃金について、「2020年代に全国平均1500円」、「5年以内の加重平均1500円」、「早期に全国一律1500円」などの公約が飛び出すほどです。
これらの公約に対して、「自治体ごとに家賃や生活水準が違う中で、どうやって一斉に1500円に上げるのか」、「過去の5~6年で150円~160円程しか上がっていないのに500円近く上げるは非現実的だ」などの声が少なくないようです。
また、「全体の賃金も上げなくてはならなくなる」とか、「年収の壁による社会保険との兼ね合いも発生する」など、今のままでは無理だとする企業側だけではなく労働者側からのネガティブな声も出ているほどです。

勿論、他の先進国の水準と比較して最低賃金が極めて低いと指摘されている日本において、早急に引き上げることが望まれているのは言うまでもないでしょう。ましてや、昨今日本では格差問題や貧困問題がクロースアップされており、労働者の生活保障や生活水準を引き上げるうえで緊急な課題でもあるのです。
しかし、今の日本の経済状況からして「最低賃金1500円」のハードルは決して低くないことも確かで、実現への課題も少なくないでしょう。

何より最低賃金引き上げによる企業への影響が決して少なくありません。当然、人件費が増えることによるコスト増への負担がのしかかり、コスト増による経営不振を招くことになりかねないでしょう。
また、賃金コストの負担を避けるための雇用削減や、労働者側においても「年収の壁」による労働時間の減少なども発生し、雇用問題にも一層悪影響を及ぼすことになるでしょう。
人材不足・人手不足が深刻化するなか労働市場の流動化が進み、企業は賃上げが出来なければ人材が確保できず、企業の継続が危うくなるという状況がにわかに表面化してきている今日の状況では、中小・零細企業などの企業淘汰が急速に進むことも予想されます。

要するに、企業全体の生産性を高め経済全体の成長なくして賃金だけが上昇することは、資本主義経済の構造からして現実的ではなく、ましては最低賃金が急激にあがることは、逆にその弊害も少なくないのです。
いずれにしても、日本社会において労働者の最低限の生活保障とともに、生活水準の改善を図るうえで最低賃金の見直しと一層の引き上げは急務な要求であって、そのための経済全体の舵取りが必須の課題と言えるでしょう。

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