アプロ君のいちからわかる経済教室;物価高なのに「デフレ脱却」と見れない理由

物価
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とどまる気配が無い「値上げラッシュ」と物価高の中、国民生活はますます苦痛を味わっている昨今ですが、実は政府からもデフレ経済からの脱却宣言は未だ出ていません。バブル崩壊後、日本経済は長らくの間、デフレ経済化に苦しんできたのですが、デフレ経済からの脱却を目指し、あらゆる手段が講じられてきて今に至っています。かつて、「アベノミクス」が掲げた目標も、デフレ経済からの脱却でした。異次元の金融緩和もそのための手段でしたが、その効果について否定的な判断が大勢でした。
ところが、ここへ来て円安による輸入品の値上げなどから物価高が常態化している現在、「デフレから脱却していない」と言われると、違和感を覚えるのが当然ではないでしょうか。
そこで、今回はデフレからの脱却とは一体どういう状態のことなのかについて考えてみましょう。

・デフレ脱却の定義と経済指標

そもそも、デフレとは持続的な物価の下落を意味しているのですが、昨今の物価上昇からすると、デフレからの乖離が明らかです。ところが、デフレからの完全な脱却は「デフレでないこと」だけでなく、「再びデフレに戻る見込みがない」状態に至ってこそ成しうるのです。
そこで、デフレ脱却の根拠と見なすいくつかの経済指標を取り上げてみます。

まずは、消費者物価指数です。これはモノやサービス価格の動きを全体で見る場合によく使われるのですが、デフレの判断をするうえで最も重視する指標です。
この消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)を見ると、少なくとも直近の2022年4月から2024年11月まで32カ月連続で前年比2%を上回っています。なので、消費者物価指数を見る限り、デフレ状況にないと言えるでしょう。

そこで、「再びデフレに戻る見込みがない」と判断するうえで重要な経済指標として注目されているのが、GDPデフレーターや単位当たりの労働費用、そしてGDPギャップです。それぞれ、その状況を見てみましよう。

まず、GDPデフレーターですが、これは国内総生産の物価水準の変化を調整する指標で、名目GDPと実質GDPの比率を表すものです。要するに名目GDPを実質GDPで割って算出されます。
一般的にGDP(国内総生産)は4四半期別に分けて統計を取るのですが、各3ヶ月間に国内で生産された商品やサービスの価格から原材料価格を引いたものが名目GDPです。その推移を過去と比較する場合に、過去と同じ量の商品を生産していても、商品の価格が上がると、その分、名目GDPも上がってしまいます。こうした価格上昇分を除いたものが実質GDPです。この名目GDPと実質GDPの比率を見ることで名目GDPにおける価格上昇分がわかるのです。つまり、GDPデフレーターは物価の上昇を表すものなのです。ちなみに、消費者物価指数は生鮮食品を除いた総合で物価水準の変化を見るのですが、GDPデフレーターは国内で生産されたすべてを網羅して平均的な物価の上昇を計算するものと言えます。

内閣府によると、このGDPデフレーターは、直近の2024年7~9月期まで8四半期連続で前年比プラスとなっています。すなわち、GDPデフレーターからも物価が持続的に上昇していることがわかります。

次に、単位当たり労働費用ですが、これは企業が製品を作るのに必要となる賃金を表していて、雇用者報酬を実質GDPで割ることで求められます。単位当たり労働費用が上昇すると、製品を作るための賃金が上がるので、賃金上昇を伴う物価上昇への圧力が期待できます。この単位当たり労働費用も足元の統計では、やはり前年比プラス傾向で推移しています。
ここまでの指標を見ると、いずれも足元の状況はデフレから脱してきていることを示していると言えるでしょう。

・GDPギャップが表しているもの

ところが、最後のGDPギャップを見ると、事は違ってくるのです。
GDPギャップとは、国の経済全体の総需要と供給力の差を示す指標で、需給ギャップとも呼ばれています。GDPギャップがプラスの場合、すなわち総需要が総供給を上回っている状態をインフレギャップ、逆にマイナスの場合、すなわち総需要が総供給を下回っている状態をデフレギャップと言います。

需要が供給を上回りGDPギャップがプラスになれば、物価は上昇する方向に向かうのですが、実は足元のGDPギャップはマイナス傾向が続いているのです。
内閣府によれば、直近の2020年以降も連続してマイナスを推移しており、2024年度もマイナス見込み(-0.3)となっています。このように、GDPギャップがマイナス状況では「再びデフレに戻る見込みがない」と判断するのは早計と見られるのです。
前述したように、消費者物価指数やGDPデフレーターなどが物価上昇を示しているとしても、このGDPギャップがマイナス傾向にある場合は、この先、物価が持続的に上昇すると見込むことが難しいのです。政府や日銀がデフレ脱却宣言を発していない主な根拠はこのことによるものと考えられます。

・デフレ脱却への見通し

昨年12月の経済財政諮問会議で、政府は2025年度のGDPギャップは0.4%のプラス転換との試算を示しましたが、少子高齢化による人手不足などから供給が絞られることが主な理由とされています。
また、昨年7月の年央試算では、2025年度の消費者物価が前年比2.2%、GDPデフレーターは前年比1.6%と見通しています。

しかし、足元では物価上昇に賃金の伸びが追い付かない状況で、実質賃金が依然として下落している状況などを含めて考えると、消費需要がどれだけ伸びるのか不確定要素が多々あることも否定出来ないでしょう。そういう意味では、GDPギャップが必ずしもプラスに転換出来るのか、微妙であると思えてなりません。
いずれにせよ、完全なデフレ脱却への道筋が大変厳しい状況にあることには違いないでしょう。

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