今年に入っても値上げラッシュは収まる気配はなく物価の上昇が常態化する中、景気の落ち込みが明らかになりつつあり、いよいよ日本経済はスタグフレーションの瀬戸際に差し掛かっていると言っても過言ではないようです。今の日本経済の実情をどう見るべきか、その実態についてまとめてみます。
・止まらない消費者物価の上昇
昨年に続き値上げラッシュが収まる気配が見えない中、主要な食品メーカー195社における家庭用を中心とした5月の飲食料品値上げは478品目に及び、値上げ1回当たりの平均値上げ率は15%となりました。単月の値上げ品目数としては1月以降5ヶ月連続で前年同月を上回りました。
5ヶ月連続での前年越えは、記録的な値上げラッシュとなった2023年6月以来、約2年ぶりのことです。
また、2025年通年の値上げは、10月までの公表分で累計1万4409品目にのぼり、2024年通年の実績(1万2520品目)を超えました。すでに6月と7月の単月で前年を大幅に上回る1000品目超の値上げが予定されており、今年における飲食料品値上げの勢いは昨年に比べて強い状態が続いているのです。
帝国データバンクは、25年累計で最大2万品目の値上げを予想しながらも、値上げラッシュが本格化した22年実績の2万5768品目に並ぶ水準に達する可能性もあると見ているようです。
そんな中、総務省は4月の消費者物価指数の速報値を発表(5月23日)したのですが、それによると、2020年を100とした総合指数は111.5となり、前年同月比で3.6%の上昇を示しました。3%を超える上昇率は5か月連続で、日銀が目標とする2%を大きく上回る伸び率が続いています。
ちなみに、これは3月とほぼ同率の上昇ですが、これはインフレの勢いが一段落したかに見える一方で、物価が依然として高止まりしていることも浮き彫りにしていると言えるでしょう。
特に注目されるのは、生鮮食品やエネルギーなど価格変動が大きい品目を除いた「コアコアCPI」(消費者物価指数のうち、生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数)でも109.7となり、前年同月比で3.0%の上昇を記録した点です。これは、内需や人件費など、国内要因が物価を押し上げている兆候を表しているものと見てとれます。消費者物価指数の上昇要因が物だけでなく、外食や保険料などサービス関連の価格にも波及しているのですが、これは人件費の上昇が背景にあると見られます。
いずれにせよ、4月の消費者物価指数が前月比で小幅な動きにとどまったように見えますが、その内訳をみると、食料品とエネルギーの価格が高止まりし、サービス価格にも波及している点で「持続的インフレ」の兆しが明確になっているのです。
・GDP成長率の減少
一方、GDP成長率に目を向けると、内閣府が公表(6月9日)した1~3月期の実質国内総生産(GDP)2次速報は、前期比0.0%減、年率換算で0.2%減と4四半期ぶりのマイナス成長となりました。
最大の要因は家計消費の伸び悩みにあるようです。
先述したように、最近のモノやサービスを含め消費者物価指数の上昇が円安による輸入品価格の上昇から国内要因へとシフトしつつあるのですが、とりもなおさず、その多くの部分は賃金上昇を背景とした企業の価格転嫁によるもです。
要するに、賃上げの販売価格への転嫁によって、賃上げをすれば物価が上昇することになり、また物価が上昇するために賃金を引き上げざるを得ないといった、物価と賃金の「悪循環」が生じることになるのです。この過程で実質賃金が上昇しないために消費は低迷し、その結果、社会全体として国内総生産も停滞するといった構図に陥っているわけです。
このように、現在の日本では物価が上昇する一方で、経済成長は鈍化、あるいは低下しつつあり、典型的なスタグフレーションの状況になりつつあると言わざるを得ません。
景気の弱含みが続き、コメ価格の高騰など物価の上昇が収まる気配が見えない中で、足元では食品や日用品を中心に買い控えが強まるなど消費者の値上げ疲れが鮮明となり、現状以上のさらなる値上げは消費者の節約志向を強めるリスク要因になっています。こうして、物価の上昇と景気下振れの悪循環が起きる恐れが高まりつつあるのです。
・強まる内憂外患の様相
内閣府が発表した景気ウォッチャー調査によると、現状判断DIが4月は42.6と、コロナ禍で景況感が悪化していた2022年2月の37.4以来の低水準となっており、5月は若干の改善があったものの44.4と依然として弱含みの状態にあります。(DIが50以上であれば、景気が上向きと判断、50以下であれば景気が下向きと判断)
懸念せざるを得ないのは、日本のGDP成長率の落ち込みがトランプ関税賦課が本格化する前に起きているという点です。今後、米国関税賦課に伴う対外条件の悪化によって、輸出鈍化など景気の下押し圧力が強まることが予想され、トランプ関税発動前においても、すでに力強さを欠いている日本経済において、発動後はさらなる下押し圧力がかかるのは避けられないでしょう。
そういう意味では、今後4~6月期はもとより、それ以降もさらに深いマイナス成長に陥る可能性も否めないのです。
今期の業績予想の下方修正が相次ぐ中、雇用やや所得が悪化すれば消費活動は萎縮し、企業の投資行動も慎重になりかねません。米関税の影響を踏まえて25、26年度の実質GDP見通しを引き下げた日銀は、利上げで緩和度合いを調整する方針を堅持しているのですが、政策判断は一段と難しさが増す可能性があると言えるでしょう。
いずれにせよ、景気後退と物価上昇が同時に進むスタグフレーションの瀬戸際にある日本経済は、今後、内憂外患の様相が強まることが予想され、一層難しいかじ取りに迫られるのではないでしょうか。

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