アプロ君のここに注目;「物価と賃金の好循環」は本当か

物価
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このところ、値上げラッシュが続く中、賃金も以前にない上昇率で上昇しています。この状況を見て政府・日銀は「物価と賃金の好循環」と肯定しており、事態を楽観しているエコノミストも少なくないようです。しかし、本当のところはどうだろうかと疑念を抱かざれをえません。
今の物価上昇と賃金上昇をどう評価するべきか、その真相をしっかりと把握することが大切ではないでしょうか。

・直近における名目賃金の上昇

23年の春闘による賃上げ伸び率をみると3.6%で、これは1993年の3.89%以来、30年ぶりの高水準でしたが、24年はさらにそれを上回り5.1%というかつてない高水準で賃上げがおこなわれました。その結果、名目賃金の上昇率は、これまでの傾向に比べ顕著に高くなりました。

この流れを汲んで、連合は今年の25年の春闘において、ベースアップ相当分として3%以上と、定期昇給分を合わせて5%以上を要求する方針を決めています。また、中小企業に対しては1%以上を上乗せして、6%以上の賃上げを要求する方針を決定しました。さらに、非正規雇用に対してもこれ以上の賃上げを要求する構えのようです。
これらの要求に対して、新年早々大手企業などは前向きに対応することを相次いで表明しています。

これまで30年近くの期間にわたって、日本の賃金はほとんどと言っていいほど、上昇していなかったのですが、2025年はその状態からの決別がさらに進む可能性が高いと思われます。

・下落する実質賃金の実態

名目賃金は上昇するとしても、人々の暮らし向きを決めるのは実質賃金であるということは言うまでもないでしょう。この実質賃金は名目賃金と物価上昇率によって決まります。したがって、名目賃金が増えても、物価上昇率が賃金上昇率を上回れば、実質賃金は低下することになります。

そこで、物価の上昇率についてみると、例えば2024年の消費者物価(生鮮食料品を除く総合)の対前年同月比が2.0~2.7%程度だったので、実質賃金の対前年同月比は24年5月まで26カ月連続でマイナスだったのです。6,7月にㇷ゚ラスになったのですが、8月以降はまた4ヶ月連続マイナスになっています。
このように、実質賃金が低下するという大筋の傾向は長期的にも変わっていないのです。

名目賃金は上昇しているにもかかわらず、実質賃金が下落しているのは、上で述べているように名目賃金以上に物価の上昇率が増しているからです。

・物価上昇の原因

では何故、物価が上昇しているのか、その真相を見てみましょう。
これまでは、円安による輸入物価の高騰が消費者物価を引き上げてきたのですが、現在は状況が少し異なっているようです。日銀の統計によれば、円ベースでの輸入物価は対前年比で2024年9月以降、11月までマイナスとなっています。さらに政府の物価対策としてガソリン代や電気・ガス料金の補助によって消費者物価の統計値を実態より低く抑えています。
輸入物価が下がり、政府の物価対策にもかかわらず、物価が上昇しているのは賃金上昇の背後にあるメカニズムにその原因があると考えられます。

仮に労働生産性が上昇することによって賃金が上がるのであれば、賃上げを販売価格に転嫁する必要がないのですが、労働生産性が上昇しないにもかかわらず、賃上げが行われているのは企業が賃上げ分を価格に転嫁しているのに他なりません。言い換えれば、賃上げが価格転嫁によらざるを得ないのは、労働生産性が上昇しないにもかかわらず、賃上げが行われていることを意味しているのです。

昨今の名目賃金の上昇が労働生産性の上昇によるものでないことは、「単位労働コスト」の分析によって確かめることが出来ます。「単位労働コスト」とは、一単位のモノを作るのに必要とする名目賃金報酬のことですが、労働生産性が上昇していないにもかかわらず賃金が上昇すれば、単位労働コストは上昇します。最近の数年間の単位労働コストの統計によると、確実に上昇していることが見てとれます。
すなわち、生産性が上昇していないのに賃上げが行われていることを示しているのです。
これは、賃上げが企業利益圧縮によって行われているか、あるいは価格転嫁されて最終的に消費者の負担になっていることを意味しています。
中小企業・小規模事業者の場合、企業利益が圧縮されている可能性がありますが、大企業の場合には、ここ数年間の利益の増加や内部留保の増加が顕著であることから考えると、売り上げ価格に転嫁されている可能性が高いと言えます。そして、このことが最近の消費者物価の上昇の主な要因になっていると考えられるのです。繰り返される「値上げラッシュ」が、その大半の商品が大手企業の商品であることを見ると、明らかに賃上げが価格転嫁によるものと考えられます。

問題は、日銀も含め多くの職者がこの単位労働コストの上昇を、デフレ脱却を確かなものにする「賃金と物価の好循環」を示すものだと解釈していることです。つまり、単位労働コストの上昇を望ましい現象と捉えているのです。しかし、これは全く逆で、「物価と賃金の悪循環」の何ものでもないのです。
つまり、賃金の引き上げが売り上げ価格に転嫁されて物価を引き上げると人々の暮らしが困窮し、そのため、さらに賃上げが要求されるという「物価と賃金の悪循環」が発生しているのです。

・「物価と賃金の悪循環」の弊害

労働者の名目賃金が上昇する一方で、企業が賃上げ分を価格転嫁することによって、最終的にそれが消費者物価に転嫁されるということは、結局、労働者にしてみれば自分で自分の賃上げを負担していることに他なりません。まして、給与収入に頼らない小規模事業者や年金生活者にとって、物価の上昇はそのまま負担増として生活苦に直結するのです。
賃上げが価格転嫁によって行われる限り実質賃金が安定的に上昇することにはならないので、その結果社会全体の消費支出が縮小していくことは避けられないでしょう。

また、大手企業の賃上げへの前向きな対応に比べ、中小・零細企業においては企業利益が圧縮され経営が厳しくなることも考えられ、企業間の賃金格差が一層拡がることに繋がり、これによる労働市場の流動化と、中小零細企業における人材不足を加速させる結果を招くことも考えられます。
この状態が続けば、賃上げと物価上昇のインフレ・スパイラルに陥る危険も否定出来ないでしょう。
そして、日本経済はデフレ脱却どころか深刻な不況への道を進むことにもなりかねないのです。

今年の経済や景気を展望するうえで、最も重大な課題として賃上げ問題が取り上げられていますが、今年に入っても「値上げラッシュ」が後を絶たない中、何故物価が上昇しているのか、その真相をはっきり把握することが要求されているのではないでしょうか。

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