連日、報道されているように米価の高騰が続く中、政府備蓄米がやっとスーパーで売りだされ消費者の手に届くようになりました。昨年夏以来のコメ騒動が遅きに失した感がありますが、やっと動きだしたようです。はたして、コメ価格の高騰が収まっていくのでしょうか。その行方についてまとめてみます。
・動き出した政府備蓄米の放出
周知のように、政府備蓄米がここへ来てようやくスーパーなどで売り出されました。
去る5月26日、小泉農水相は就任するやいなや、自ら「コメ担当大臣」と称しながら、どんな手を打ってでも米騒動を収束させると言い切って、備蓄米の放出を競争入札から随意契約に切り替え、国による買い戻し条件も無くす措置を取ることにしました。
随意契約とは、発注者である政府や地方自治体が、任意で決定した相手と契約することをいうのですが、価格も政府が決め、まずは30万トンを大手の小売り業者に放出することにしたのです。あっという間に売りつくされ、政府の思惑通りに1週間たらずで5キロ当たり2000円前後で売り出され、どこも完売続きになっているようです。
3月~4月の入札米ではなく、新担当大臣により打ち出された随意契約により、大手小売り業者に売り渡された2022年産の古古米が消費者にいち早く売り出されたのです。かなり、早いスピードで消費者の手に渡り、少し驚いているのが正直なところです。
2022年産米(古古米)の売り渡しが約20万トンに到達したところで、大手小売り対象のものは一旦休止し、残りの10万トンのうちの2021年産米、約8万トンのいわゆる古古古米については、売渡し対象を変更して中小のスーパーや町のお米屋さんに対して随意契約をするとしています。小売価格は約1800円程度になることを見越しているようです。
その結果、3月~4月に3回に分けて入札によって放出したとされる31万トンと、今回の随意契約を通してすでに売り出された、またはこれから売り出される約30万トン、計61万トンが放出されることになったのです。
・以前の備蓄米放出は何だったのか
今回の随意契約による備蓄米の放出を目の当たりにして、今までの「放出」は一体何だったのかあらためて考えざるを得ません。
3月から3回にかけて31万トンがすでに放出されたのですが、入札方式により、その9割以上がJA全農に売り渡されたと言われています。そもそも、競争入札では最も高い金額を提示した集荷業者に売り渡される仕組みになっており、しかも、備蓄米の入札は原則1年以内に同品質・同量のコメを買い戻すという条件つきなので、政府の買い戻しに対応できるのはJAしかないので、ほぼJA全農が独占する形で売り渡されていたのです。というわけで、この入札方式そのものが備蓄米の価格が高い一因になったことは否めないでしょう。
より注目せざるを得ないのは、その備蓄米が何故十分に流通されず消費者に行き届かなかったのかという点です。農水省の調査結果によると、3月に落札された約21万トンの備蓄米のうち、4月末までに集荷業者から卸売業者を経て小売業者に売り渡された量は約1万5000トンで、約7%にすぎないのです。
このような流通の目詰まりが起きたのは、「米価を上げること」を課題にしてきた「自民党農水族」やJAのような農業団体の思惑にかなっており、この目詰まりがコメ価格の高止まりの一因でもあったのです。要するに、速やかに流通させコメ価格の高騰を収束させることよりも、コメ価格の高止まりを意図した集荷業者や卸業者の意識的な対応であったと言っても過言ではないでしょう。
報道されたように、JA全中(全国農業協同組合中央会)の会長が現在のコメ価格について、決して高くはないと発言しているのは偶然ではないようです。
・コメ価格の行方
さて、随意契約で備蓄米がスーパーに売り出されることにより、コメ価格の高騰は収束されるのか関心が集まるところです。
備蓄米が出回ることにより、店頭に並ぶコメの価格は多様な形態をもつことになりそうです。
まず、備蓄米が3種類の価格で売り出されるのですが、一つは、これまでの競争入札で落札された備蓄米で、2023年産の古米の価格が、5キロ3500円前後のもので、ブレンド米としても店頭に出されているもの。そして、次に今回の随意契約によって売り出されている2022年産の古古米がおよそ2000円前後のもの。さらに、これから新たな随意契約によって売り渡される2021年産の古古古米が1800前後で売り出されるもの。そして、新米の銘柄米で高騰し続けている4500円~5000円のものと、ざっと見て4種類の価格値で店頭に並ぶことが想定されます。
これらの価格帯で店頭に並ぶことにより、コメの格差がくっきりとあらわれるのですが、どのコメが今後のプライスリーダーになるのか、消費者にとってどの価格帯のコメが優先的に選択されるのか注目されるところでしょう。
問題は、政府備蓄米の放出によりコメ価格の高騰が収束されていくのかということです。
ちなみに、日本のコメの年間消費量は約700万トンで、その推計からすると随意契約によって放出された30万トンの備蓄米は約17日分に過ぎないのです。こう考えると備蓄米の放出がコメ価格の長期安定に十分な対策にはなり得ないのではないかと思われます。
全体のコメ価格を下落させるにはコメの流通量を増やすことが要求されるのですが、備蓄米の在庫には限りがあり、市場価格に影響を与えるほどのインパクトになるのか注目されるところです。
とりわけ、課題となるのは銘柄米の高騰を収束させることですが、2025年産の銘柄米に対して、JAグループはコメを集荷する際に農家に前払いする「概算金」をすでに高値で提示しており、JA以外の集荷業者も生産者に対して60キロ3万円~4万円というこれまで以上の価格で契約し始めているなど、新米の銘柄米などは高止まり状態が続くとする見方が大勢のようです。
いずれにせよ、備蓄米の効果が出るには時間がかかりそうで、持久戦の展開になる可能性もあるのですが、コメ問題は日本の食を守る根源にかかわる問題だけに、備蓄米放出のような緊急対策だけでなく、これを機会に中長期的な農業政策のあり方を真剣に考えていくべきでなないでしょうか。

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