前回、一定の生産関係のもとで自己増殖する価値のことを資本といいましたが、ではこの自己増殖はどのようにして行われるのでしょうか。
この問題を考えるうえで注意すべきことは、資本主義経済において商品の売買は価値通りにおこなわれるということです。すなわち、商品の流通過程において価値法則が貫徹していることを前提に考えなければならないということです。
ということは、商品の交換過程では価値の増殖は起こりえないのですから、価値増殖は特定の商品そのものの消費から生じるしかないのです。言い換えれば、商品の価値からではなく商品の使用価値から生ずるということです。
そこで、その仕組みについて立ち入って考察してみたいと思います。
自己増殖する資本としての主体は企業(会社)です。企業は一定額の資本で生産手段を購入し、労働者を雇うことから始めます。これは商品を生産するための絶対的な要素なのです。
そこで、企業に雇われた労働者は生産過程において、生産手段を活用して商品を作るのですが、この時、労働者が労働する過程は、一方において使用価値としての商品を作り、他方においては一定量の価値物としての商品を作りだすのです。すなわち、労働者の労働過程は使用価値の生産過程であり、価値の生産過程と言えます。
すでにみたように、商品価値の実体は労働であり、価値の多いさは労働時間によって規定されるので、価値を創造する過程としての労働時間が問題となるのです。
そこで、企業に雇われている労働者は労働力を提供して、例えば8時間の労働をした場合には8時間の価値を生むのですが、この時に労働者が賃金として受け取るのは8時間の価値物ではなく、労働力の価値に該当する価値分を受け取るのです。
つまり、表面的には8時間の労働の報酬としてあらわれる賃金は、労働力の価値として受け取るのです。
かりに、1日当たりの労働力の価値が4時間とすると、労働者が受け取る賃金は4時間の価値を意味しているのであり、残りの4時間分は企業の手中に残る価値、すなわちこれが資本の機能として生産された価値の増殖分になるのです。
もし、企業が労働者によって作られた価値の全体を労働者に賃金として支払うならば、企業に残る価値分はゼロになるので、要するに企業の儲け分はゼロということになります。これは常識的にはあり得ないでしょう。
こうして、企業は一定額の資本で生産手段と労働力を商品として買い入れてから、目的とする商品を生産する過程で、価値の増殖を成し遂げているのです。そしてこの価値の増殖分が企業の儲けになるのです。要するに企業が得る利潤なのです。
以上みたように、価値の増殖は商品としての労働力の消費過程でおこなわれるのです。すなわち、労働力の使用価値にその源泉があると言えるのです。
こうして、企業は例えば100億円の資本金を投資して、10億円や20億円の利潤を得るために絶えず価値増殖の運動を繰り返すのです。
このように、価値増殖する資本の運動をみるうえで、その源泉である「労働力」商品について把握することが決定的に重要であることが分かります。
そこで、次回にこの労働力という商品について立ち入って考察してみたいと思います。


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