なぜ日本の賃金は上がらないのか

先日、「アプロ君のいちからわかる経済教室」で賃金について述べましたが、物価の上昇と関連して、今、問題になっている賃金問題について日本の現状を少し立ち入って考えてみたいと思います。

日銀の黒田総裁は金融緩和を継続する立場を明言しながら、今の物価上昇への負担を軽減するうえで不可欠なのは、賃金を上げることだと賃金上昇への期待感をあらわにしました。

しかし、かつての流れをみると日本の賃金はなかなか上がらないのが現実で、今後も賃金上昇への期待を持てるのか、はなはだ疑問に思えてなりません。

報道によると、4月の消費者物価指数の上昇率は2015年3月以来、約7年ぶりに2%台を記録し、物価上昇の波は食料品など幅広く及んでいます。
一方で、物価動向を加味した3月の実質賃金は前年同月比0.6%増で、4月は前年同月比1.2%のマイナスになっています。
要するに、物価の上昇に賃金の上昇がついていってないばかりか、その差が広がりつつあるのです。当然生活に大きな打撃にならざるを得ないと言えます。

さて、そこで日本ではなぜ賃金が上がらないのかということですが、その主な要因について3点取り上げてみたいと思います。

第一に、労働分配率が低いことがあげられます。
労働分配率とは、付加価値額に占める人件費の割合です。要するに企業が儲けをどれだけ賃金として分配したかという尺度のことです。
この労働分配率をみるとアメリカやEUの国に比べて一貫して低いのです。例えば、2019年の統計をみると、ドイツの64%、アメリカの60%に対して、日本では56%程度にすぎないのです。
日本の場合、ほぼ20年近くこの労働分配率が上がっていないのです。労働分配率の低さは賃金の上がりにくさを表していいると言えます。

第二に、労働者の流動性が低いことにあります。
上述したように、労働者の流動性が低いのには様々な原因が考えられますが、なかでも注目されるのが、新卒一括採用や終身雇用といった日本の安定しすぎた労働環境が影響していると考えられます。いわば、労働者が同じ会社に長く勤めがちで、労働条件に多少の不満があってもなかなか会社を辞めようとしないことが大きな原因になっているのです。このように労働市場の流動性が低いのです。

企業側の視点で考えると、賃金が上がらなくても従業員が簡単に辞めないので、企業は賃金を上げるモチベーションが低くなるのです。
労働者側から見た場合も、同じ会社で長く働いたほうが恩恵を受けやすいという事情があります。年功序列で賃金が上がっていく慣行があり、その反面若いうちはどれだけ活躍し会社に貢献しても、給与は低めに抑えられます。このような慣行や制度のもとでは、良い転職をしない限り途中で辞めると、かえって損をするということになってしまいます。
このように、日本の雇用をめぐる環境全体が、労働者の流動性を低くしているのです。

第三に、正社員と非正社員との賃金格差が大きな要因として考えられます。
日本の雇用事情を見ますと、ここ十数年来、非正規雇用が増加傾向にあるのですが、2020年時点で非正規雇用労働者は2090万人で、雇用労働者全体の37%を占めるようになりました。
景気の良し悪しにかかわらず非正規社員の賃金が低水準にあり、正規雇用と非正規雇用との賃金格差が歴然としてあるのです。同一労働に対して正規雇用と非正規雇用の賃金格差が社会的な問題として取り上げられていますが、是正されるまではまだまだ時間がかかるようです。

このように、日本では賃金上昇に多方面での抑圧要因が作用しているように考えられます。古くからの慣行的な要因や制度的な要因が作用しているのであり、とりわけ派遣労働法の改革など、一連の労働政策により任意的に賃金が低く低く抑えられてきたと言っても過言ではないでしょう。

労働者の賃金が低く抑えられ労働分配率が低い分、企業にとっては儲けが増えているのであって、それは40兆円~50兆円にも及ぶ企業の莫大な内部留保が積みあがっていることに、はっきりと表れているのです。

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