アプロ君のいちからわかる経済教室;2025年、年金制度改革関連法案の注目点と課題

年金

周知のように今月16日、政府は年金制度改革関連法案を閣議決定しました。衆院に提出され、来週から国会での審議が始まるようですが、最終的な年金制度改革がどのような形になるのか、国民の注目が集まっています。今回は、先日閣議決定された政府の年金制度改革関連法案の注目点と課題についてまとめてみましょう。

・年金制度とは

はじめに、そもそも年金制度とは何かについて確認しておきましょう。
年金制度とは、国がサポートする社会保障制度のことで、日本では1959年に「国民年金法」が制定され1961年からスタートしました。日本における年金制度は「国民皆年金」を採用していることが特徴で、全国民がなんらかの公的年金制度を適用される仕組みになっているのです。

ただ、正確に理解しておかなければならないことは、年金は「年金保険」という保険であることです。決して福祉ではないのです。病気やケガのリスクに備える健康保険や、死亡のリスクに備える生命保険のように、年金はいわば「長生きするリスク」に備える保険だといえるでしょう。
年金が保険であることから、他の保険と同じく保険料を多く納めるほど、補償額が増えることになります。現在の法律では、10年以上保険料を納めていれば年金を受け取れることになっているのですが、10年しか納めていない人と40年納めた人とでは、当然もらえる金額(年金)に差が出るのです。

年金制度は、基礎年金である「国民年金」を土台(基礎年金)として、厚生年金と私的年金の3種類に分類されます。
国民年金は20歳以上60歳未満のすべての国民が共通して加入義務を負うもので、毎月決められた金額の保険料を納めます。基礎となる国民年金は、職業やライフスタイルによって被保険者は3つの区分に分類されます。
第1号被保険者は主に自営業者・フリーランス・学生等、第2号被保険者は厚生年金に加入している会社員・公務員、第3号被保険者は第2被保険者の被扶養配偶者が該当します。
厚生年金は会社員や公務員などが加入する年金で、70歳未満の人は強制加入が原則となっているのですが、給与所得に比例して納める金額が異なります。
私的年金は任意で加入を希望する人に限る年金です。
このように、年金はいわば「3階建て」の構造で成り立っているのです。

年金制度は国内における社会問題と密接な関連性があるため、国民の社会保障を維持していくために、その時々の社会情勢に見合った制度改正が余儀なくされます。なので、年金制度は社会情勢などからして、制度そのものの健全性の検証を踏まえ、5年に1回改正される仕組みになっているのです。そこで、前回の改正から5年を経た今年の2025年が新たな改正時期になるのです。

・今回の年金制度改革関連法案の注目点

さて、そこで今回閣議決定された政府の改革法案は3つのポイントがあるように思われます。
第一に、「106万円の壁」の撤廃を盛り込んでいることです。
「106万円の壁」については、昨年以来さまざまな議論がされてきたのですが、106万円は厚生年金への加入義務が発生する年収要件で、106万円に達しない範囲で働くという「働き控え」の原因と指摘されています。人口減少が進む中で人手不足が深刻な社会問題になっている昨今の状況を踏まえ、今回の改革案では、厚生年金の加入要件のうち、「年収106万円以上」を撤廃し、企業規模の要件についても「従業員51人以上」という要件を段階的に緩和・撤廃することで、約200万人が厚生年金に新たに加入できる見立てのようです。このように、給付が手厚い厚生年金に入るパート労働者を増やすための要件緩和措置を盛り込んでいることが注目されます。

第二に、「標準報酬月額」の上限を引き上げることです。
先述したように、厚生年金の保険料は収入ごとに区分けして決定されていますが、この区分けの上限を65万円から75万円に引き上げようという内容が今回の法案に盛り込まれています。これが実現すれば、高収入の人がより多くの保険料を納めることになります。2027年9月から段階的に実施するとしています。

第三に、「在職老齢年金」の制度見直しが盛り込まれていることです。
「在職老齢年金制度」とは、働く高齢者の「収入+厚生年金」が「支給停止調整額」を超えると年金が満額はもらえなくなるという仕組みです。今回の見直しでは、この「支給停止調整額」を現在の50万円から62万円に引き上げようというのです。これにより、いままで50万円の範囲に収まるように「働き控え」をしていた高齢者が62万円の範囲まで働くようになり、労働力不足解消につなげる狙いがあるようです。

・改革法案の課題点

上述したように、改革法案には短時間労働者に対する厚生年金の適用を拡大するなどを盛り込んでいますが、パートで働きながら、「第3号被保険者」として保険料を免除されてきたサラリーマンの配偶者は、「106万円の壁」が解消することで保険料負担が新たに生じることになり、物価高の中で手取り収入が減ることへの不安や、負担を避けようと週20時間以内で就業調整する可能性もあります。
また、厚生年金は保険料の半分を事業主が負担するため、50人以下の企業も対象に加えると、小規模企業の負担が増え経営が成り立たなくなる恐れもあるのです。

また、なにより本来、改革法案の目玉だとされていた将来世代の基礎年金(国民年金)の底上げ案が法案から削除される異例の事態となっているのです。
上で述べたように、基礎年金(国民年金)は日本に住んでいる20歳以上60歳未満のすべての人が加入する年金で納める額ともらえる額は、納付期間が同じであれば賃金の多寡にかかわらず定額ですが、国民年金にのみ加入している自営業者などは、厚生年金にも加入している会社員などに比べて将来もらえる年金が少なくなります。とりわけ、注目すべきは厚生年金の未加入期間が長い人が多いとされる「就職氷河期世代」の救済の観点からも国民年金の底上げの必要性が議論されてきたのです。

「就職氷河期世代」とは、バブル崩壊後の雇用環境が非常に厳しい時期(1993年~2004年)に就職活動をした世代のことで、全国に約1700万人いるとされています。
厚生労働省によると、大学を卒業して初めて赴いた仕事が「正規雇用」だった人は、氷河期後期(1999年~2004年卒)で78.1%、大企業に就職した人は同じく氷河期後期で40.6%となっていて、「就職氷河期世代」には厚生年金の未加入が長い、あるいはずっと未加入の人が多いとされています。
こうした「就職氷河期世代」の老後の生活保障として基礎年金の底上げが議論されてきたのですが、この問題が今回は見送りとなったのです。その原因は主として、結局は財源をどう確保するかということに尽きるのではないでしょうか。要するに、厚生年金の積み立てからの拠出や国庫からの拠出を増やすことなどが議論されてきたものの、賛否両論で今国会中には結論が出ないことと見越しての判断のようです。

周知のように、日本では少子高齢化の影響ににより高齢者の増加に比例して、現役世代の社会保障費の負担が重くのしかかっている反面、人口で高齢者の割合がますます多く占めていくことにより、1人当たりの年金額が減額され、現役世代が年金を受給する頃には受給額はさらに減少してしまう可能性もあると予測されています。そのような懸念が高まる中、とりわけ今回の年金改革法案の行方が国民の大きな関心となっているのです。

いずれにせよ、今国会の「重要広範議案」の一つである法案の審議が当初の予定(3月の法案提出)から2か月遅れでようやく始まるのですが、野党は修正を求める構えで、法案の成否はなお不透明と言えるでしょう。今後の審議の行方が気になるところですね。

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